『この星空には君が足りない!』有丈ほえるインタビュー

――まず、有丈ほえるさんの執筆活動についてお聞かせください。小説を書き始めたのはいつ頃からですか?

 大学1年生の時に、ふと思い立って自己満足で小説を書き始めました。それまで、特に何か創作活動をしていたわけではなく、幼稚園の頃に遊びで漫画を描いていたくらいで、小説を読むのが特別好きというわけでもないんです。自分でもなぜ小説を書き始めたのか不思議なのですが……。

――何かきっかけがあったというよりは、何となく書いてみようかなと?

 そうですね。本当にそんな感じなんです。内容は身近な友人をモデルにして書いた妄想小説なので、人に見せられるようなものではないですね。この人とこの人がくっついたら面白いだろうなとか。そうしたらこいつが反発するだろうなとか勝手に妄想して、誰にも言わずにこっそり書いていました(笑)。

――それは人に見せられそうにないですね(笑)。小説賞に投稿を始められたのはいつ頃からですか?

 社会人になってからです。「小説を書いてお金が稼げたら最高だな」と思って投稿を始めて、続けていくうちに小説家になりたいという思いが強くなりました。投稿を始めて2年目くらいから二次選考を通過するようになってきて、出版社から担当編集者がついてやりとりが始まったりして今に至ります。その頃からは投稿作品だけでなく編集者と一から作っているものも出てきましたね。いずれは小説の賞が欲しいなと思っていたところに、初めていただいたのが京都アニメーション大賞の審査員特別賞でした。

――京都アニメーション大賞に応募しようと思われたのはなぜですか?

 正直に言うと『この星空には君が足りない!』(以下、『ほしきみ』)が書き上がったタイミングと京アニ大賞の応募締切日が近かったからです! 『ほしきみ』は締切り一週間前くらいに完成した、できたてほやほやの作品だったので、応募するタイミングにぴったりだったんです。京アニ大賞に投稿したのは、この作品が初めてです。

――執筆のペースはどれくらいですか?

 3ヶ月で文庫1冊分を目安にしています。だいたい1ヶ月に8万字が今の僕の執筆スピードなので、2ヶ月で16万文字。残りの1ヶ月は推敲をするという流れです。初期の作品は見返したくもないですけどね(笑)。

――3ヶ月に1作は新しい作品を書かれているんですね。
小説のアイデアはどのようにして見つけておられますか?

 僕の場合は、知らない分野の本を読み漁ることに尽きますね。自分の中にあるものからネタを絞り出そうとしても、なかなか新しいものは出てこないし、小説を書くために知識のインプットは欠かせません。なるべく、自分が全く知らない分野の本を読むようにしています。

――物語はあまり読まないけれど、専門書などは読まれるんですね。

 何度も同じテーマで書くと飽きてしまう性格なので、新しいネタ探しのためにさまざまな専門書を読むようにしています。
 語弊があるかも知れませんが、僕は作品とかキャラクターにあまり固執しないタイプなんですよ。一度書き終わった小説は散髪して切った後の髪みたいな感じで、自分からは切り離された存在として捉えています。

――では、もう新作のネタがあると!

 あります! 企画として通るかどうかは別ですけれど(笑)。あまり手垢のついていないネタで、ちょっと目新しい小説を書けたらと思っています。

――『ほしきみ』は恒星に宿る少女たちが星座になるために頑張る物語ですが、
このアイデアはどのようにして着想を得られたのでしょうか。

 就職活動をしている大学生時期に、よく地元の秋田から東京まで夜行バスで通っていたんです。なかなか上手くいかなくて落ち込みながら夜行バスで秋田へ帰る日々だったんですけど、ある夜にバスの休憩場所で星空を見上げたんです。その時にこれだけ多くの星があるけれど、星座になれる星はごくわずかなんだなぁと。星座になれない星たちが自分の境遇と重なって、恒星が星座になるために就職活動をしていたら面白いのではと思ったのがきっかけです。

――素敵なエピソードですね。

 自分の実体験から作品のテーマを見つけ出したのは、これが最初で最後かも知れません。最近は発想よりも知識を入れて書いているばかりですね。単純にこうした方がアイデアが降ってくるのを待つよりも効率がいいからなんですが。あれ? ロマンチックな話をしていたのに、だんだんと夢のない話になってきましたね(笑)。

――『ほしきみ』を執筆する中で苦労していること、または嬉しいことを教えてください。

 作中に出てくる宇宙絡みの問題を、絶対にありえないことだけれど納得してもらえそうな手段で解決に導くことです。それっぽい理屈をつけた方法で問題解決するために、いろいろな書籍を読んで調べて考えて……。これが一番大変です!
 嬉しいことは、最初の読者である編集者に「面白かった!」と言ってもらった時ですね。読者に楽しんでもらうのはもちろんですが、まず編集者が楽しんで読んでくれることを大切にしています。そうでなければ、本を出版できないので。

――本の出版が目的であると。

 小説を読んでもらいたいだけなら、同人やネットなど公開する場はいくらでもあると思いますが、僕はレーベルから本を出版することが最終的な目的です。工業製品でもそうだと思いますが、売ろうと思う人がいないと世に出ないので、編集者が求めている規格にあわせて小説を書いているつもりです。
 作品の根底を覆されるような場合には反論することもありますが、基本的には互いの意見を交換しながら作品を作り上げる信頼関係を大切にしています。これも最短距離で作品を世に送り出すためです。

――編集者とはどのようなやりとりをしているのですか?

 投稿作品以外で白紙の状態から企画がスタートする場合、僕の中で小説の形をした「パンフレット」を作っているようなイメージです。まず、パンフレットを見せて「これが欲しい」という要望が返ってきたら、それをもとに作るという感じです。基本的には自分の書きたいものよりも、編集者が求めるものを優先します。

――『ほしきみ』が有丈ほえるさんの処女作となりましたが、周りの反響などはありましたか?

 小説を書いている事を周りの誰にも告げていないので反響はないです(笑)! 読者の方には読んで欲しいですが、僕の本名を知っている人には恥ずかしいので絶対に知られたくないですね(笑)。

――作品を作り上げる上で心がけていることや、大切にしていることはありますか?

 『ほしきみ』に関していえば、キャラクター同士の関係を、与えるだけ・与えられるだけの関係で終わらせずに、互いが与え合う関係になるように意識しています。本編では主人公の天戸すばるがナナルナたちを全力で肯定していますが、その分だけナナルナたちもすばるに大きな信頼を寄せていきます。お互いを大切に思い合う関係性を描きたかったので、それは大切にしています。
 あと、著者紹介で「音楽のような小説を書きたい」と言っていますが、具体的にどんなものなのか自分でもよくわかっていないんですけれど(笑)、そんな気持ちが創作の原動力です。音楽って聞いた瞬間にわくわくできるから、それを小説に持ち込めたらと。地の文がポエムっぽくなってしまうのは音楽のせいかも知れません。盛り上がるシーンを描く時には音楽を大音量で聞いて一気に書いちゃいます。気持ちがノッている時はエンターキー「ッターン!」て感じですよ(笑)。後で「恥ずかしいこと書いているな……」と思いながら推敲する日々です。

――あと、これは是非お聞きしたいのですが「有丈ほえる」のペンネームの由来って……

 ……そうですね。恥ずかしいですけど、ロックンロールが好きなので叫ぶってすごくかっこいいことだと思っていて。だから、物語がたくさんの人に届くように……ですかね。

――では、最後に読者の皆さまへメッセージをお願い致します!

 とにかく、わくわくどきどきして下さったらうれしいです! 『ほしきみ』をよろしくお願いします!

――有丈ほえるさん、ありがとうございました!

秋田県出身、東京都在住。
第7回京都アニメーション大賞にて光栄にも審査員特別賞を賜る。
音楽みたいな小説が書きたい。
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