スペシャル

著者:橘 悠馬 書き下ろしキャラクタートーク

一、毒見のすすめ

それは、典薬寮に新しく届いた薬種を整理していたある日のこと。

雪代

「飛廉、毒見の訓練に付き合ってもらえる?」

飛廉

「雪代様……いくらなんでも、それは危ないことですよ。主が毒見するなんて……わたしはさせませんよ。絶対に止めてみせます」

雪代

「あ、わたしが毒見するんじゃないよ? 飛廉が毒見するんだよ?」

飛廉

「わたしを毒殺するおつもりですか! 笑顔で物騒なことをおっしゃらないでください!」

雪代

「いや、これは薬師や医生の職掌上、必要なことなんだよ。毒物の研究は薬種の研究につながる。いつか言ったでしょう、薬と毒は表裏一体だって。だからこれは薬の研究なんだよ」

飛廉

「おそろしいことを仰らないでください。絶対嫌です。毒見なんて付き合いませんからね」

雪代

「なんでわたしの頼みは聞いてくれないんだよ……天籟じゃないと駄目なの?

飛廉

「……なんで天籟殿の名前がでるんですか」

雪代

「以前、天籟の水干は喜んで着ていたじゃないか」

飛廉

「喜んで着ていません!」

雪代

「でも着ていたじゃないか。それは事実だろう」

飛廉

「わたしは女装趣味なんて持っていませんから。無理やり着せたのは雪代様じゃないですか!

雪代

「女装趣味は吹聴しないであげるから、毒見の訓練、付き合ってもらうよ。じゃあ棚からこの覚書に書いた薬種を取ってきて」

飛廉

「もうやだ……こんな職場」

二、乗馬のすすめ

それは、典薬寮の医生が勉学のため主馬寮に駆り出されたある日のこと。

キリン

「なあ、飛廉、ちょっといいか」

飛廉

「キリン殿、御無沙汰しております。雪代様ですか?」

キリン

「いや。今日は飛廉に用があって来たんだ。実は雪代の件でね……」

飛廉

「何かありましたか?」

キリン

「典薬寮はときに主馬寮の業務を手伝ってくれるんだ。馬の出産とかな。ただ、雪代はそういう時にしか主馬寮に来てくれなくなってな……ちょっと寂しいんだ」

飛廉

「仲いいですからね、おふたりは」

キリン

「まあ、以前は乗馬の手解きをしていたんだ。遠出するときに馬に乗れると、すごく便利だからな」

飛廉

「成程。確かにそうですね」

キリン

「ただ、雪代は馬が苦手みたいなんだよ。なんとか克服してもらいたいな、とは思っている。飛廉のほうからそれとなく言ってくれないか。馬に乗れたら、なにかと便利だとか、まあ、さりげなく」

飛廉

「はあ……分かりました。その話は雪代様に伝えておきます」

キリン

「頼むぞ、飛廉。雪代はかわいいからなぁ……乗馬に失敗して水浸しになったとき、泥だらけになったとき、やけくそに悪態をつくのが、もう可愛くて堪らないんだよ」

飛廉

「……主馬寮に来なくなったの、それが原因では?」

三、琴のすすめ

それは、主が慌ただしく飛び出した典薬寮の薬殿でのこと。

天籟

「飛廉、雪代がどこにいるのか正直に教えなさい

飛廉

「……ご無沙汰しております、天籟殿。あの、突然どうされました?」

天籟

「雪代にを教えているんだけど、最近、仕事が忙しいからってわたしを避けているの。もう長い時間が空いたから探しに来た」

飛廉

「……雪代様は薬師を志しているので、琴を弾けなくても、困らないのでは?」

天籟

ダメ。飛廉は何も分かってない。貴人を相手にして薬師を務めるなら、琴や笛をたしなめたほうが、朝廷ではうまくやっていける。わたしは雪代のためを思ってやっているの」

飛廉

「まあ、天籟殿は琴や笛がうますぎて、教えが厳しいのかもしれませんね。あなたほどの有名人なら、誰だって逃げ出すかもしれません」

天籟

「……雪代が琴や笛をやってくれたら、楽しくていいと思ったのに……

飛廉

「すみません……そんなに悲しそうな顔をしないでください。あ、雪代様でしたら奥の納殿に隠れていますので」

天籟

「ありがとう、飛廉」

飛廉

「……うわぁ、演技だったのか。騙された……」

雪代

「また馬鹿正直に話したな、飛廉の馬鹿ぁ!」

四、酒のすすめ

それは、仕事帰りに立ち寄った酒場でのこと。

飛廉

「酒は飲んでも飲まれるなと言いますが……雲居殿、飲み過ぎでは?」

雲居

「いいじゃないかよ、こんな時くらい、不真面目なことをしたって。仕事で忙しくて、唯一慰めてくれるのは酒だけだ。男の世界はそういう風に相場が決まっているんだよ」

飛廉

「……なんの話ですか」

雲居

「おまえは体力があるんだよな……あんなに激務をこなしても、顔色ひとつも変えやしない」

飛廉

「まあ、狩人をやっていましたので、体力には自信がありますね。忍耐力にも」

雲居

「そういえば飛廉って……雪代様と付き合っているのか?」

飛廉

「…………なんですか、藪から棒に」

雲居

「いや、不思議に思うだろう……あんな美女と一緒に行動を共にして、しかも夜は一緒の建屋で寝ているんだろう。なにもない、っていうのがあり得ないだろう」

飛廉

「雲居殿は下衆の勘繰りがお好きなんですね」

雲居

「おい、そんな冷たく言うことないだろう……なあ、誰が好きなんだよ。やっぱり雪代様?」

飛廉

「いや……」

雲居

「なんだ、キリン殿か?」

飛廉

「キリン殿は山荒殿が狙っているじゃないですか」

雲居

「じゃあ天籟殿か?」

飛廉

「いや、天籟殿の名前をなんで出すんですか」

雲居

「お、顔色が変わったな。やっぱり天籟殿に懸想しているのか? まあ、雪代様やキリン殿は難しいよなぁ。天籟殿って高嶺の花だけど、やっぱり男ならお近づきになりたいよな、よ、むっつり助平!」

飛廉

「……すみません、お勘定、お願いします」

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発売記念コメント

著者:橘 悠馬

皆さん初めまして。橘悠馬です。

小説が完成した時、スティーブン・キングの言葉を思い出しました。
『作家になりたいのなら、絶対にしなければならないことがふたつある。たくさん読み、たくさん書くことだ』
これまでたくさんの素敵な本に出会いました。何度も何度も読み返して、『いつか自分もすごい作家になってやる!』と意気込んで、なんとかここまでやってきました。
自分の本棚にあるのは巧妙な話術やトリック、絶妙な構成に衝撃を受けた本ばかりです。
それらの本に比べれば、『典薬寮の魔女』は拙い処女作。
でも、読んでくださる人たちに伝えたい物語はしっかり詰め込みました。

この一冊が皆さまにとって素敵な本になりますように。
そして、皆さまがこれからも素敵な本と出会えますように。

イラスト:遠田志帆

発売記念 応援イラストコメント