SPECIAL TALK!

文庫本の「顔」ともいえるカバーイラスト。
『MOON FIGHTERS!』のイラスト制作を担った京都アニメーション所属のスタッフ3名に、キャラクターデザインやイラストの制作秘話をうかがいました!

――本作のイラストは丸木宣明さんを中心に、秦あずみさんと高山真緒さんの3人で制作を進められました。最初に自己紹介をお願い致します。

丸木:

京都アニメーションの丸木宣明です。キャラクターデザインをはじめ、カバーイラストとキャラクター立ち絵の線画とイラスト全体のディレクションを担いました。普段はアニメーションの作画監督をはじめ、『ツルネ』シリーズ、『メイドラゴン』シリーズなどでは総作画監督を担当しています。

秦:

キャラクターの色彩設定を担当した秦あずみです。アニメ-ション制作では色彩設計や色指定を担当しています。

高山:

カバーイラストの描画を担当した高山真緒です。アニメーション制作では背景を担当しています。

名前から生まれるイメージをデザインに

――まず、丸木さんにおうかがいします。文庫イラストを担当して欲しいという依頼があった時、どのように感じられましたか?

丸木:

引き受けるかどうか、正直とても悩みました。

――賀東先生の小説の面白さに匹敵する魅力的な絵を書ける方というところで、お話があったそうですね。

丸木:

名前を挙げていただけるのは、一人の絵描きとしては大変うれしい事ですし、キャラクターデザインにも興味はありました。一方で、制作現場を任された立場でもあったので、自分のやりたいという気持ちだけで引き受けていいものかと悩んでいたんです。そんな時、アニメーターの先輩である石立太一さんが「やるんだ!」と背中を押してくださったこともあってお引き受けしました。

――小説を読まれていかがでしたか?

丸木:

賀東招二先生の小説をじっくり読むのは、総作画監督を担当した『甘城ブリリアントパーク』(※)以来でした。賀東先生の作品はコミカルなキャラクターの掛け合いが魅力的で、でもシリアスなシーンではぐっと締めるようなメリハリのある印象を持っていたのですが、この作品でも同じ印象を受けました。『甘ブリ』の制作を懐かしく思い出しながら原稿を読ませていただきました。

※『甘城ブリリアントパーク』(ファンタジア文庫)…賀東招二著作のライトノベルシリーズ。2014年に京都アニメーションが制作したTVアニメーションが放送された。

――キャラクターデザインのイメージはどのように膨らませましたか?

丸木:

メインキャラクターの5人に関してはイメージイラストがあったので、それをベースに進めていきました。描き始めた頃は、デザインの方向性を探っていたので今よりもリアル寄りの絵柄になっています。今、こうして見ると瞳の印象が大きく違いますね。これが最初の真朱孝太郎(まそほこうたろう)のデザイン案です。

▼初期デザインラフ1

丸木:

レスキューものなので、緊張感のあるシーンはもちろんありますが、普段の彼らのコミカルな部分を表現できないかと思い、2つ目のラフからは次第に漫画チックな絵柄になっていきました。コメディチックな崩した表情も描いています。

▼初期デザインラフ2

丸木:

孝太郎のヘアスタイルをどうするかは悩みましたね。メンズのヘアカタログを参考にしたりしました。今思うと、もうちょっと遊びを入れてもよかったかなとも思いますね。実在するヘアスタイルを参考にしていたので現実に寄せ過ぎたかな?

▼決定したキャラクターデザイン
秦:

主人公の王道な感じが出ていてすごくいいと思います。キャラクターの芯の強さが伝わってくる気がするので、わたしはこのヘアスタイルが孝太郎にとても合っていると思います。

丸木:

「こんな感じの人いるよね」くらいがちょうどいいのかな、と。キャラクターの名字が色の名前になっているので、その色から生まれるイメージもキャラクターデザインで表現したいとは考えていました。このデザインに色がついたらさらに華やかになるだろうと思ったので、ヘアスタイルは奇抜にし過ぎず、完成した時の全体のバランスを考えてちょうどいい塩梅になったかと思います。
お仕事ものなので作中では、近い年頃の男性がみんな同じ制服を着ていることもあり、髪型で個体差を強調する必要がありました。シルエットだけを見ても誰だかわかるようなキャラクターデザインを意識しています。

▼群青のヘアスタイル案
▼常盤のヘアスタイル案

秦:

丸木さんがちょうどキャラクターデザイン作業をされていた時、たまたまスタジオ内の席が近かったこともあり、制作途中のデザイン画を見せていただいたことを覚えています。これまでの当社作品と比べると年齢層が高く、渋さもあるような新しい男性キャラクターたちだと感じて、その時からワクワクしていました!

高山:

わたしは丸木さんがキャラクターデザイン作業をされている段階では、この作品に関わるなんて思ってもみませんでした。今こうして決定するまでのデザイン案を見ても、最後にたどりついたデザインが小説で描かれている真朱にぴったりだと思います。

――キャラクターの他に衣装のデザインもされましたが、いかがでしたか?

丸木:

衣装については、賀東先生と打ち合わせをした際におおまかなイメージを共有できていたので、その情報をもとに自分でも調べつつ進めました。孝太郎たちは月面で船外活動するときに基本装備となるインナースーツを着て、その上からさらに使い捨てのアウターを羽織っています。

▼インナーの衣装デザイン
▼アウターの衣装デザイン

丸木:

実在する宇宙服を参考にしつつ、実際に活動できそうなデザインを目指したいと賀東先生と打ち合わせで話していました。インナーのイメージは他の宇宙を題材にした作品で例のあるようなピッチリとしたタイトな全身タイツタイプですが、現実でもスリムな宇宙服のデザインや研究はなされているようで、近未来ならこういうのも実現されているよねということでこの形になっています。一方、アウターは賀東先生から「消防士が着る防火服のようなデザインにしたい」というオーダーもあり、宇宙服にその要素を足していきながら考えていきました。
しかしアウターは使い捨てであることが作中で示されていましたので、宇宙空間で活動できる最低限の生命維持機能をインナーに備えて、アウターはその補助やレゴリス(※)などから身を守る防護的な役割を主にするという考え方で進めた結果、かなり普通の上着っぽい形になっていきました。これでいいのかけっこう悩んでいたんですが、賀東先生から「実際の防火服もシンプルですけど装備をつけたり現場の汚れがついたりするとすごくかっこよくなるんです」と言っていただけたので、これでいこうとなりました。

秦:

本の中のイラストではほとんど正面しか見えていませんが、背面機構もしっかり作り込まれていますね。アニメのデザイン設定と同じくらいの情報量になっていて、相当調べられたのではないでしょうか。

丸木:

自分でもできる限り調べたのですが、まだまだ知識不足だと感じています。

秦:

この作品は近未来が舞台ですが、何万年も先の未来というわけではなく2023年から約100年後くらいという世界観ですし、リアリティとのバランスが難しかったですよね。

丸木:

そうですね。色をつくる上でも服の素材が何なのかなど気になりますよね。

秦:

「スーツのこの部分はなんの素材でできていますか?」って何度もおうかがいしました。

※レゴリス…固結していない堆積物の総称。月の表面は鋭利なレゴリスで覆われている。

イラスト制作チーム結成!

――キャラクターデザインが固まってきた段階で、色彩設計や描画を他のスタッフに依頼することになりました。その経緯をうかがえますか?

丸木:

普段はアニメーターとして絵を動かす事に従事しているので、仕事として色を扱うことは長年やっていませんでした。ですので、イラストを商品として世に送り出すにあたって、やはり色を専門的に扱われている方の力が必要だと考えました。同時に社内のスタッフが、アニメーション制作以外の新しい仕事にチャレンジする機会になればとも考えていましたね。

――そこで、ペイントスタッフの方々にむけて有志のコンペティションを行われたそうですね。そこに秦さんがご応募されたのですね。

秦:

はい。参加自由のコンペティションでしたので、わたしも一スタッフとして作品を提出させていただきました。募集要項に「少年漫画らしさ」とあったので、本屋さんで様々な少年漫画のカバーイラストを見たりして、自分なりに少年漫画らしさを感じる色について研究しました。結果、髪の毛などの影色に黒を入れて絵を引き締めて、目を引き付ける色彩を目指して配色しています。

▼秦さんがコンペティションに提出した応募作

秦:

舞台が月面でしたので、背景の色は地球ほど多くないだろうと思い、キャラクターの髪色はモノトーンの月の背景の中でも映えるように彩度を高めにしました。先ほど丸木さんのお話にもありましたが、キャラクターの名字が色の名前になっているので、色のイメージとキャラクターがすぐにリンクしやすいように、伝わりやすい「王道感」に仕上げました。個人的にも手応えを感じて応募したので、選んでいただけたのはとてもうれしかったです!

――丸木さんが秦さんの作品を選ばれた決め手はなんでしたか?

丸木:

審査は名前を伏せた状態で行ったので、これが秦さんの作品という事は知らない状態で拝見しました。最初に見たときに「ピンときた」というのが一番の決め手だったと思います。秦さんとはこれまでのアニメ作品でもメインスタッフとしてご一緒させていただいたこともあり、クリエイターとしての技術はもちろん、人としての信頼もあったので安心しておまかせしました。

――では、高山さんの参加はどのような経緯だったのでしょうか?

丸木:

カバーイラストも線画からアニメ塗りで進めるか、背景スタッフにタッチのある絵を描いてもらうかをずっと考えていました。ちょうどその頃、背景室のまとめ役の方とお話する機会があって、それとなく「背景と人物も含めたイラスト的な絵を描けそうな人っていますか?」と聞いてみたんです。そしたら、高山さんのお名前が上がってきて「よし行けそうだぞ!」と思って、正式にお願いしたという流れでした。

高山:

そうだったんですね! 今回の企画に私が指名されたのは、背景マンとしての新しいチャレンジを期待されたという部分が大きいのかなと思います。近年、当社の背景スタッフが京都迎賓館のPRポスターなど、アニメの背景以外の絵を描く機会が増えていて、まだそうした仕事をやっていなかったのが私だったので、声がかかったのかと思います。

秦:

最初に高山さんのポートフォリオを見せていただいたのですが、背景画以外にも人物画やさまざまな画風の絵を描かれていて「まだこんな才能の持ち主がいたなんて……背景室すごいっ!」と思いました。

高山:

いやいや! 文庫の顔となるカバーイラストを描くのは責任重大ですが、きっと良い経験になるだろうとは思いました。仕事ではキャラクターを描いたことはなかったのですが、プライベートではキャラの絵を描いたりもしているので、お役に立てるのなら……とお引き受けしました。

アイデアと情熱を上乗せしていく

――3人でのイラスト制作はどのように進められましたか?

丸木:

月面というと静かなイメージがありますが、この作品では「静けさ」ではなく「華やかさ」をコンセプトにしていたので、そこからイラスト全体のイメージを紐解いていきました。カバーイラストの前に、最初はキャラクター紹介にも使われているメインキャラクター5人の立ち絵を描き始めました。

秦:

丸木さんが立ち絵の線画を描かれている間、私は色や塗り方のバリエーションを作ってイメージを練っていました。キャラクターの髪色はコンペ応募時よりも彩度を落としてリアリティを出しつつも、小説の持っている元気でポップな魅力を色で表現出来ないかなと考えていった結果、エッジの効いた差し色を入れてみるのはどうかという話をしましたよね。

高山:

話し合いの中で出てきたアイデアを、秦さんがすぐに資料にまとめて提示してくださって、それが3人の中のイメージを共通認識にしていく上でとても助けになりました!

▼塗り方のバリエーション案
▼色彩設計の調整版

――3人の話し合いの中で出てきた印象的なアイデアはありましたか?

秦:

差し色の表現として用いたネオンカラーは、この作品の指針になった気がします。立ち絵の着彩の際、最初は全員同じネオンカラーで進めていたのですが、最終的にはキャラクターごとのイメージカラーの補色にすることで上手くまとまった気がします。5人それぞれの立ち絵にさまざまな色を入れることができたので、並んだときに特に華やかに見えると思います。

――インナースーツのハイライトがオーロラのように光っているのも特徴的ですね。

秦:

ありがとうございます。近未来感も出したいなというのと、最近オーロラ系の素材を雑貨やアパレルでよく目にしていたので、前々から何かの作品で使いたいなと思っていたんです。

丸木:

「温めていたアイデア、ここで使えそうだな!」ということですね(笑)。

秦:

ですね! 白一色だと寂しいのですが、ハイライトにオーロラが入ったことでぐっと華やかになったかなと思います。キャラクターの立ち絵は何度も微調整を繰り返してこだわりましたよね。ぜひ立ち絵のバックに入っているインクスプラッシュの話も伺いたいです。

▼丸木さんの描いたインクスプラッシュ

――立ち絵のインクスプラッシュのアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか?

丸木:

僕の方から提案させていただきました。作品として華やかな絵を目指していたので、立ち絵にも人物だけでなくプラスの要素が欲しいと思ったんです。そこで、孝太郎たちが所属している鴻救命は日本の企業だったので、力強い毛筆で描いたようなエフェクトのイメージを思いつきました。物語の舞台は月ですが、イメージとして毛筆の払いを銀河。飛沫の一つ一つを星に見立てて考えています。実作業は、僕が鉛筆で作画したシルエットをもとに高山さんに素材を作っていただいたのですが、どのように進められたのでしょうか?

高山:

丸木さんが描かれたインクスプラッシュを参考に、実際に絵筆に絵の具をつけて紙に描いてみました。紙に描いたものをスキャナで取り込んで、そこからデスクトップ上で微調整をしています。インクのかすれ具合や偶然生まれる筆のはねやはらいの味わいは、デジタルでは表現しにくいと思うので、絵筆を使ってみてよかったなと思います。

丸木:

スプラッシュに関しては高山さんにお任せした部分が大きくて、僕はただただ「すごいなぁ!」と感心しきりでした。

高山:

丸木さんが線で描かれたインクスプラッシュのシルエットが十分かっこよかったので、なんとかそれを再現したかったんです。絵筆で描いた素材をPCに取り込んでから、デスクトップ上でインクの飛び散った粒の位置を調整したり、素材ごとのレイヤーを組み合わせたりしながら丸木さんの絵に近いものを目指しました。

▼高山さんが作ったインクスプラッシュ案

丸木:

そんな苦労が……。知りませんでした。

高山:

絵筆のみで思い描いたスプラッシュの形を作るのは難しいので、パレットナイフを使ったりもしています。

秦:

え~! デジタルとアナログの合せ技ですね!

高山:

こちらで用意したインクスプラッシュのフォルムを秦さんに着彩していただきましたが、いかがでしたか?

秦:

高山さんがスプラッシュの素材データを細かくレイヤー分けしてくださっていたので、作業を進めるうちにいろんなアイデアが浮かんできて、せっかくなら一色ではなくいろんな色を重ねてカラフルにしてみようと思いました。だた、あまり目立たせ過ぎてしまうと、キャラクターに目が行きにくくなってしまうので結果的には同系色でまとめています。

丸木:

完成した絵の全体のバランス調整は重要なので、「透明度をあと15%落として欲しい」とか、秦さんには何度も何度も細かい調整をお願いしてしまいました。

秦:

そうした微調整を繰り返したことで、キャラをより引き立てつつ全体的に彩りを添える絶妙なバランスのインクスプラッシュができたと思います!

小説の世界へといざなうカバーイラスト

――いよいよメインビジュアルとなるカバーイラストに取り掛かるわけですが、どのようなものにしたいと考えましたか?

丸木:

やはり、ぱっと見て人の目を引くような一枚絵にしたいと思いました。そこへ着地するために、キャラクターをどのように配置するかは悩みました。キャラクター1体を真ん中にドンと配置するのも、人の目を引き付ける一つの方法だと思うのですが、やはり「賑やかに」「華やかに」というコンセプトがあったので、5人を浮遊させつつ周囲に小物を散りばめる方向で進めようと思いました。

高山:

そこで、話し合いの中でわたしの方から丸木さんが構図を考えるきっかけになればと思い、いくつか案を出させていただきました。キャラのポージングは専門ではないのであくまで全体のイメージとしてですが、なにかのきっかけになればと思って作らせていただきました

▼高山さんが提示したカバーイラストの構図案

丸木:

高山さんが作ってくださったカバー構図案は、とてもイメージづくりの参考になりました。おかげで1つ目の構図案にたどりつくまでの時間を大幅に短縮できたと思います。1つ目に提出したカバーラフはこちらですね。

▼カバーラフ1

丸木:

ラフ1を出した後で、手前にいる孝太郎のポージングが気になり始めたんです。「孝太郎が差し出した左手の意味とはなんだろう?」と。そこで孝太郎はレスキュー隊員ですし、手を差し伸べてみてはどうかと思い、左右を反転させて手前に向かって右手を差し出すポーズに描き直しました。それがこちらです。

▼カバーラフ2

秦:

2つ目のラフを見たときに「これは来た!」と思いました。

丸木:

レスキュー隊としての人を助ける手を意味しているのですが、そこまで重々しい印象にはならないようにしたつもりです。レスキューとして人を助ける意味と同時に、読者を作品へといざなう手という意味もあります。

――カバーの線画が完成してから、着彩や背景を含む描画作業は高山さんが進められたのでしょうか?

丸木:

そうですね。線画の段階では人物と刈安武の私物の「イルカさん」など最低限の小物を描き込んだだけなので、後は基本的に高山さんにおまかせする形でした。

秦:

高山さんが用意してくださった小物の資料はすごかったです。アニメ制作の設定マネージャーの仕事みたいでした。

丸木:

背景のイメージはどのように作っていったのですか?

高山:

まず、実景(写実的な風景画)ではなく、あくまでイメージ空間の背景ということだったので、何を描くべきかという点でかなり悩みました。カバーイラストの作業に入る頃には「月がアツ苦しい!」というキャッチコピーもうかがっていたので、背景も「静」ではなく「動」の絵になるようなイメージを持っていました。それを表現するために、画面全体に勢いや動きが出るように背景にいろいろな方向から曲線を入れたり、キャラクターの軽やかな感じに合わせて小物を散りばめたりして浮遊感を演出しています。また、小物の他にもイメージ背景として作中に登場する『XR(拡張現実)』を表現できないかと考えました。
全体の色味は、真朱たちが着ているインナーが明るい白だったので、それが映えるようにするためと宇宙感も出せるよう暗めの青色にしています。ただ暗い色だと重い印象になってしまうと思ったため、彩度の高い色を使いつつ、イラスト全体の下から上に向かって若干強めにグラデーションを入れたりして浮遊感を出してみたり、細部にカラフルな色を入れ込んで明るい印象になるようにしました。こうしたアイデアを、丸木さんへのご提案資料を作りながら、自分の中で整理していった感じでしたね。そもそも線画の段階で、キャラクターの配置が十分かっこよかったので、余計なことをしなくてもこのままでもいいかと思いつつでしたが。

丸木:

いやいやいや。ありがとうございます(笑)。

高山:

線画だけで奥行きのあるカッコいい絵に仕上がっていて、思わずそっちの世界に行きたくなってしまうくらいだったので、この線画のかっこよさを崩さずに自分に何ができるだろうか、と考えながら進めていました。

――これまでの3人の話し合いの中から、取り入れたアイデアはありますか?

高山:

カバーの制作が進んできたところで、途中経過を丸木さんにお見せしながら、「キャラクターにネオンカラーの縁取りをいれてみてはどうかな?」というお話をいただきましたよね。そこからは、もう盛り盛りで行こうと思って。こうして見ると、ネオンカラーの縁取りはやってよかったなと思います。

秦:

そうですよね。絵の完成度がぐっと上がりましたし、自然とキャラクターに目が行きやすくなったと思います。

高山:

ただ同じ色で縁どりするだけだと、どうしてもベタッとした印象になるので、キャラクターの近くの背景色を見ながらグラデーションをかけたり、縁取り線の太さも入れる箇所によって調整しています。これで、キャラを際立たせつつ、背景から浮かないようになじんだのではないかなと。

▼カバーイラストのキャラアップ(ネオン縁なし)
▼カバーイラストのキャラアップ(ネオン縁あり)

秦:

こだわりがすごい!

丸木:

秦さんもそうでしたが、高山さんにもいろいろと積極的なご提案をいただいけて、本当に心強かったです。立ち絵のインクスプラッシュをカバーイラストにも入れていただいていますよね。

高山:

そうです、そうです! 立ち絵で使われたインクスプラッシュ要素もカバーに取り込ませてもらいました。結果的にスプラッシュの飛び散ったインクが銀河の星屑のようにも見えるので、宇宙感も出せたのかなと思います。文庫本のサイズなので、細部までは見づらいかも知れないのですが、孝太郎の肩や髪の部分にもトーングラデーションを施していたりと、細部にまでこだわっているのでじっくり見ていただけたらうれしいです。

――文庫イラストの制作を振り返っていかがですか?

高山:

普段の背景作業とはまた違った貴重な経験をさせていただきました。特に、秦さんからの提案を見て学ばせていただくことが多かったです。当社のアニメ作品では実景を描くことが多いのですが、今回はイメージ的な背景だったので、背景マンとしてもとてもよい蓄積になりました。

秦:

今までにやったことがないジャンル、世界観、お仕事モノというところからのスタートだったので、宇宙飛行士の方がどういう素材の服を着ているかなど、実作業に入る前の下調べに時間をかけました。まだまだしらない事は多いのですが、小説を読んで色を考えて作りながら私自身がとてもわくわくして。その気持が色の表現になって、読んでくださったお客さんにも伝わるといいなと思っておりました。世界観もキャラクターも本当に魅力的なので、私自身もこの物語の続きをぜひ読みたいと思います。

丸木:

ものづくりって一人の内側から発するものではなくて、みんなで力を合わせて作り上げていくものなんだなというのを再認識しました。普段のアニメ制作の中でも感じていることではあるのですが、自分が前に出て細かいとところまでディレクションしながら作品を作り上げみて「やっぱり、ものづくりっておもしろい!」って思いました。

――では最後に、記事を読んでくださっている方にメッセージをお願い致します。

高山:

月面という見たことのない世界が舞台でワクワクしますし、レスキューものなのでハラハラドキドキするシーンもたくさんあります。男女問わず幅広い層に楽しんでいただける作品だと思いますので、ぜひ楽しんでいただけたらうれしいです。

秦:

カラーイラスト以外にも本文中にある挿絵のモノクロ塗りも担当させていただきました。そちらもとてもかっこいい絵になっておりますので、ぜひ書籍を手に取ってご覧いただければと思います!

丸木:

みんなで力を込めて作り上げました。小説と一緒にイラストも楽しんでいただけたらと思います。よろしくお願い致します!

――丸木さん、秦さん、高山さん、ありがとうございました! 11月22日の発売をお楽しみに!