ファンタメロディコ・マエストロ

ファンタメロディコ・マエストロ

  • 著者:虎虎
  • イラスト:しらび

 

一話「はじまりは『変な音』」

 

 小さい頃に一度だけ聴いたことがあるだけの『音』を、僕はずっと追い求めていた。

 とてもれいで、美しくて、心地よくて、でもかみょうにこうようしてしまう、僕の心が初めて動いた──素敵な笛の『音』。

 両親が音楽家ということもあり、生まれてからずっと音楽に触れていた僕だけど、その『音』は今まで触れたことがないものだったことだけはハッキリと覚えている。

 でも──それだけヽヽヽヽしか僕は覚えていない。

 その『音』を聴いたと思っている日、僕はその日の記憶をかなり失っている。

 誰がその『音』を奏でていたとか、どんなときだったのか、誰と聴いたのか、とか色々。

 だから、今となってはホントウにそんな『音』を聴いたのかも正直あいまいではあるけど。

 ただ事実もある。

 僕がその『音』を聴いたと思っている日、僕は死にかけている。

 眼が覚めたら病院に居た。

 何故死にかけたのか、どうして助かったのか──なんて記憶はもちろんないのだけど。

 どうやら海に落ちておぼれていたそうだけど、それすらも記憶がないので僕自身は死にかけたなんて感覚はなく、不思議な気持ち。

 そういうわけで──もし、またその『音』に出会うことが出来たらそのときの記憶もよみがえるかもしれないとか、単純にその素敵な『音』をもう一度聴いてみたいという探求心からずっと追い求めていたわけだけど──その日が唐突に訪れる。

 

 ぴろぴろ~♪

 

 …………。

 たぶん、きっと、この今聴こえている『音』が僕の追い求めていた『音』で間違いない……間違いないはずなんだけど……。

 眼の前にいるとても可愛かわいい女の子が吹くその笛の音色は、率直に言うと、その……、とてつもなく下手っぴで……。

 ホントウに僕が小さい頃に聴いた『あの音』なのか迷う程だった。

 それでも。

 やはりその『音』は──とても綺麗で、何故か高揚してしまい、気持ちが良くなる──あの懐かしい『音』だ。

 あのときの記憶が蘇ることはなかったけど、僕は耳はいい方だという自負がある。

 だから確信する。

 この『音』は、僕が追い求めていた『音』……だといいんだけどな~(申し訳ございません、あまりにも下手なのでホントウは確信が持てませんでした。おびしてていせいいたします)。

 その下手っぴな笛を吹き続ける女の子は、うわづかいでじっと僕を見つめる。

 なんだろう……感想が欲しいのかなと思い、僕は正直な気持ちを伝えた。

「あんまり上手くないですね!」

 僕がそう言うと女の子は眼をうるうると潤ませ、肩を落とした。

 正直に答えすぎてしまった。

 いやでも、本音は違う。

「でも好きな音です! ずっと聴いていたくなるような──

 僕の想いがちゃんと伝わったようで、女の子は眼を丸くして喜んだ。

「ホントですか これ音楽ヽヽなの! わかりますよね

「勿論! フリオーソ!」

 音楽とは自由なものであるべきだと思うし、本人が「これは音楽」と言えばそれは音楽だというのが僕の持論。決して上手ではなかったけど、気持ちのこもったいい音楽だったと思う。

 ちなみにフリオーソとは音楽用語で「ねっきょう的に」という意味なのだけど、僕は「熱狂的になっちゃうね!」みたいな意味でよく使っている。お気に入りの音楽用語だ。

「ホント うれしい! よかった~! 全然に来てくれないから、その、失敗してるのかなって思ってたんです!」

「……失敗?」

 僕は女の子の言っている意味がわからず小首をかしげる。

「この地に伝わる伝説の召喚音楽です! 何度も挑戦していたんですけど、全然召喚されなくて──えっと……貴方あなたが別世界から来てくれた……神マエストロさま……なんですよね?」

「別世界

 と、僕は驚いてみせたけど、うすうすもしかしてー……とは思っていた。

 気付けばいきなり自室じゃないとこにいるし、知らない女の子が目の前で笛を吹いているし。

 余談だけどコンサート会場みたいな(具体的にはまくはりにあるイベントホールのような場所)とても広い、よくわからない場所にいます。

 そんな謎現場のど真ん中にぽつんと男女が二人──いや、マジ、何処どこ、此処。

 しかしまあ。

 実際こういう体験をしてみて思うことは、存外驚かないということだ。

 目の前の女の子とは普通に話が通じるし、どう見ても僕らと変わらない人間だし。

 これがまあ可愛い女の子じゃなくてゴブリンとか、自分の姿が何故か女の子に変わっているとかだとさすがに驚いていたと思うけど。

 人類は異世界に慣れ過ぎてしまったのかもしれない……毎日アニメで見るもんね、異世界転生系。

 今や児童誌にも異世界転生する漫画がけいさいされる時代だもん。

 僕もその一人になってしまったわけだけど。

 というか。

 え、僕、地球から追放されたのかな それは嫌だな……。

「ハツネ、それは追放ざまあ系でごっちゃになってるよ! ハツネは召喚されたんだ。どちらかというと被害者系だね」

 と。

 何処からともなくひょこっと僕の眼の前に現れた黒猫が、とてもりゅうちょうにそうしゃべった。

「えっっっっ

 自分がいつのまにか異世界にいたことより驚いた。別にエッチだと思ったわけでもないよ!

 というか──僕……被害者……なの

 いやいや、それより!

「……ルキ

 その黒猫の首元には黄色の首輪と、それにつけている僕が小さい頃に作ったヴァイオリンをモチーフにしたチャーム。

 だから、僕の家で飼っている黒猫の『ルキ』に間違いないはずなんだけど……。

「うん。ボクだよ。ボクもハツネと一緒に此処に飛ばされてきたみたい。さっきまで一緒にいたもんね」

「いや、うん、僕の部屋で一緒にいたけど……。そういうことじゃなくて──

「まあまあまあまあ。ボクが順を追って説明するよりハツネがさっきまでのことをゆっくり思い出す方がいいと思うよ。そしたら気分も落ち着くよ」

「たしかにかなりどうようしてるけど、その理由はほぼルキのことで──

「そうだ! 彼女に自己紹介もした方がいいと思う! まだでしょ?」

「あ、うん……」

 どうしてルキはすでにんだ感じなのかとか、何故ルキが喋っているのかとか、何故二足歩行なのとか、一人称ボクなんだ、めす猫だよね──とか、色々気になることがありすぎるけど

 まあでも、ルキの言う通り自己紹介は大切だと思う。

 それに飼い猫の指示はきちんと聞くべきであろう。

 いつも「あそべ!」とか「かまえ!」とか「ごはん!」とか指示されてるもんね。

 というわけで──僕とルキの自己紹介と回想です。

 

 * * *

 

「あ、ちょっと待って」

 ルキが僕の回想を中断させた。

 まだ回想も自己紹介もしてないけど……。

「やっぱりハツネの回想は長そうだからボクが回想してハツネの紹介をするね」

「自由すぎるっ!」

 猫だからかな?

 まあでも──ルキがもし喋っていたら絶対こんな性格だろうとずっと思っていたので「これはホントウにルキだな」という謎の安心感を得る僕だった。

 

 * * *

 

「というわけで。このしょうルキがまずハツネの自己紹介をします」

 ルキはニャンといった感じにまた立ち上がって、ていちょうに、深く腰を折りおをする。

 僕としてはルキ自身の自己紹介をまずして欲しいところだったが、話の腰を折るのもアレなので黙っておいた。ありがとうルキ、僕の紹介よろしくね!

「ハツネ──フルネームは無音よばらずハツネ。私立はつすずめ学園の二年生。うお座のB型。交際歴なし。性格は明るくにポジティブ! 深刻に考えないことが玉にきず。十一歳のときのクリスマスプレゼントでもらったヘッドホンを愛用しすぎて肌身から離すことができないんだ。可愛いね」

「ちょ、ちょっとルキさん、紹介が変な方向に細かすぎでは……? というか……よく知ってるね……」

「シャラップだよ、ハツネ」

「う。す、すみません……」

「話を戻すね! ハツネは小さい頃から音楽大好きヴァイオリン奏者の母と、音楽大好きピアノ教室の先生をしている父に育ててもらっている音楽スーパーエリート。そういう環境で育ててもらっていることもあり、たくさんの楽器に触れていた。だから何でもけたり叩けたりする──けど、残念ながら楽器を上手に弾く才能はなかったみたい……でも何でも弾けたりするのもボクは才能だと思うんだ!」

「ほうほう!」

 いつの間にか女の子が僕の隣にきて、ルキの話を食い入るように聞いていた。

 猫が喋ることに疑問を持たないあたり、この世界では普通のことなのだろうか……?

 ルキはそんな様子の女の子を見て、さらに得意気に語り始める。

 何故得意気かは謎だけど。

「そういうわけでハツネはとても音楽が好きだった。どんな楽器も楽しく弾いて、どんな歌も楽しくうたっていた。楽器を弾く才能には恵まれなかったけど──それでも他の才能はあった。それが作曲! 作曲の才能はピカイチだった。ハツネの両親も認める天才! 本当にすごい!」

「作曲の天才 すごい!」

 女の子がかんたんの声をあげる。

 ルキはニヤリとした。

 というか、めすぎだけど……。

 全然天才じゃないし、まだまだ勉強中です……

「その中で一番得意だったのがバックグラウンドミュージックを作ること! 適格で理想な音を生み出すのが得意なんだよ! ハツネは! その得意を活かし、ハツネは『MuOミューオー』という名前でげきばん作家をしていたんだ。そんなとき、お仕事でゲームの劇伴に使っていただく機会が──その作品が大バズり! これは! ひみつだけどね!」

「ゲームのお仕事で! 大バズり! ひみつ聞いちゃいました!」

「…………」

 ルキが色々ヤケに詳しいのはかく

 この子、ゲームとかわからないと思うんだけど……。

 ああ、でも今の異世界だとゲームとかスマホとか普通にあるのだろうか。もしくはここがゲーム的な世界とか。僕はこっそり「ステータスオープン!」と言ってみた。何もでなかった。

 恥ずかしいので、今、僕は何もしなかったことにします。

「そんなハツネのゆうめいは『音楽の依頼は断らない。素敵な音楽を誰かに!』――どう? かっこいいでしょ?」

「かっこよすぎます! れそうです!」

「惚れるな!」

 言ってルキがいきなり女の子の頭の上に乗っかり、しっぽでぽんぽんと顔面を攻撃していた。

 突然のルキの奇行に女の子も驚いたようで、「はわわ」と頭を抱えながらあたふたしている。

 これは飼い主のしつけ不足……!(家でこんな奇行に走ったことはないんだけど……)

 急いで助けようと思ったけど──

「すみませんすみません! それくらいすごいなって思っただけで!」

「む。それならいいにゃん」

 と、ルキは満足した様子で女の子の頭の上から飛び降りた。

 そしてまた満足そうに語り始める。

「ふふふ。わかってくれてボクも嬉しいよ。それでまあ、ハツネが家でお仕事をしてるときにいきなりパソコンから「ぴろぴろ~♪」って『音』が鳴ったと思ったらパソコンがブォワァーって光ってここに行き着いたってわけ」

「なるほどなるほど」

 女の子は納得してあいづちを打っているけど──え、僕の紹介に比べて回想雑すぎない

 いや、たしかにそれ以外にあまり説明しようがない気はするけど。

 まあいいか。

「これでハツネの紹介と回想は終わりだね。じゃあハツネ、今度はメロコ姫の話を聞こうよ」

「それはまあよくないね メロコ姫 何故ルキはもう彼女の名前を というか姫

 なんだこの猫。

 ホントウに僕の家の子か

「ハツネが此処に召喚される五分程前にボクが先に召喚されちゃったから、ボクとメロコ姫はお互いに自己紹介を済ませてたんだよ」

「もうそれ、僕が召喚のおまけの方じゃない

 と。

 僕とルキがそんなやり取りをしていると、くだんのお姫様と呼ばれた方が「ふふふふふ」と可愛く笑った。

 その笑い方は。

 たしかに僕の周りでは見ない、とても上品でゆうな笑い方だなと思った。

「マエストロさま」

 メロコ姫と呼ばれた彼女はそう言って、これまた上品に微笑ほほえむ。

「マエストロさまに来て頂いて、私は本当に嬉しいんです! 貴方の音楽を私に聴かせてくれませんか!」

 言って、その女の子は僕の手をにぎり、キラキラとした瞳で僕をジッと見た。お姫様とはあまり思えない距離感の近さに僕はドキドキしてしまう。だから僕の声も裏返ってしまった。

「え、え、僕の音楽

「ハツネ。今、混乱してるでしょ? ボクにはわかるよ──そんなときは音楽を聴く、奏でる。ボクは知っているよ。ハツネの音楽は聴くと落ち着くんだ」

 ルキがまたキメ顔を作ってそう言った。

 とても嬉しい言葉ではあるが、混乱しているのはルキのせいでもあるんだけど。

 むしろ今の状況よりルキの存在の方が混乱要因の比率高いよ!

 しかし、ルキの言うことも事実ではあった。

 音楽を聴く、奏でる──それは誰でも気分を落ち着かせることが出来る魔法だ。

 僕もそれは確信している。

 僕がルキの言葉に納得している間に、ルキがさっきまでお姫様が使っていた笛をくわえて僕の所まで運んできた。早く吹けと言わんばかりに笛を咥えたまま上目で僕を見つめるルキ。

 …………。

 それを使えと 間接キスになるんだけど

 それで落ち着けと 

 しかし。

 目の前のお姫様はそんなことを一切気にする素振りを見せず、寧ろ「早く吹いて!」と言わんばかりの輝く瞳で僕を見続けていた。

 僕の感覚が間違っているのかな──いや、でも、そうだよね。

 音楽とは! 猫とは(?)!

 自由なんだ!

 僕はルキから笛を受け取る。見慣れない笛だ──日本の横笛と似たような感じだけど、穴の数が段違いに多い。指足りなくない……? とは思うけど、この構造からあの不思議な心地よい音を出しているのだろうか。

 材質も木ではなく、こうぶつ──みたいな感じ。

 異世界だし知らないナニカでできているのかもしれない。

 うーん、じっくり観察したい!

 というか異世界にも楽器があることに感動する。

 やはり音楽は万国共通、もとい異世界共通ということなんだね。

 その事実はすごく嬉しかった。

 さて。

 お姫様の「音楽を聴きたい」というお言葉に甘え、僕はその笛を試しに吹いてみた。

 楽器を上手く扱う才能はなかった僕だけど、その分大抵の楽器には触れてきたのですぐにコツはつかんだ。原理自体は笛だしね。

 僕が試しに出した音に、お姫様はとても驚いている様子だった。

「す、すごいですね! 綺麗な音──さすがマエストロさまだぁ……」

「あはは、ありがとうございます。これくらいなら朝飯前ですよ」

「おぉ! じゃあ私は──晩御飯後ですね?」

 お姫様がよくわからないことを言ったけど、僕は笑顔でスルーした。僕がよくわからない日本語を使ったのが悪い。

 とまあ、一応音楽をなりわいとしているので音を綺麗に出すくらいは朝飯──容易たやすいです。

 でもこれはただ音を出してみただけ。

 オーダーは音楽を聴きたい──だから僕は音楽を奏でる。

 ルキが紹介してくれたように特別上手く演奏出来るわけじゃないけど、どんな楽器も人並みに扱えるのは自分でも特技だとは思う。色々な楽器に触れさせてくれた両親に感謝だ。

 どんな音楽にしようか──そうだ、さっき見たお姫様の瞳がとてもキラキラ光って僕の心に強く残っていたので「キラキラ星」を吹いてみる。

 ドドソソララソ──だ。

 その音色は。

 自分で言うのもおこがましいが、とても美しく──僕の今見ている世界を鮮やかにいろどっているように思えた。

 いや……?

 違う。

 キラキラ?

 ホントウに僕の周りの景色が──キラキラと星が光る夜空に変わっている

 これは幻覚?

 それともこれは……?

 どういう現象なのか全く理解できなかったけど、僕は笛を吹き続ける。

 それが僕に課せられたオーダーだったから。

 音楽の依頼は断らない。素敵な音楽を誰かに──今は、目の前の素敵なお姫様に。

 

 ✧ ✧ ✧(メロコです!)

 

 メロコだけに、私はこの音楽にメロメロになってしまった!

 ドキドキが止まらない。

 どれくらいドキドキしているかというと、先日お城の中を一人ぜんでダッシュしたときくらいドキドキしている。(誤解されてしまいそうなので弁解します! 色々な行き違いがあって私のお風呂中に着替えもタオルも回収されてしまったからなんです! 変態じゃないよー!)

 色々なドキドキ──こんな体験は初めてだという興奮と誰かに裸を見られたらどうしようという興奮は似ているってことなんだ! それとマエストロさまが奏でるこの音楽のすごさへの恐怖によるドキドキ。誰かに見られたらどうしようという恐怖にそれも似ている気がする!

 そんな全てのドキドキが、頭に、身体に入り込んできて──本当に視界に入るものがキラキラ光って見える。

 幻覚なのか、本当に光っている現実なのか全然判別がつかない。世界が全てキラキラで、綺麗で、何故かいい匂いもするし、謎のゆう感もあって、本当に夜空の中をただよっているみたいだ。

 そんな浮ついた気持ちなのに、身体はすごく興奮しているのがわかる。アツい

 ちょっと……あのときの興奮と似ていて、今、服を脱ぎたくなってきてるもん! 

 はあ──はあ──それはダメだ! それは完全に変態だ……。

 ああ、これ以上はダメ……でも、最後に一言だけ……私──この音楽大好き!

 

 ✧ ✧ ✧(メロコの感想! 終わり!)

 

 キラキラ星を吹き終え、お姫様の方を見るとキラキラというかもうギラギラというのが正解といった感じの眼で僕を力強く見つめていた。

 僕も何度も経験したことがあるからよくわかる──熱い気持ちになってくれたのがよく伝わる眼だった。僕の音楽でそういう気持ちになってくれたのなら、ホントウに嬉しい。

 久しぶりの感覚だ。

 最近はずっと──楽器を手にして音楽を奏でることなんてなかったから。

 そんな気持ちでいると──

「改めてになるのでしょうか! 私はこのメルソフィア国の姫、メロコ。もう一つ、マエストロさまにお願いがあります。どうか、私の国を救ってください」

 目の前の彼女は真剣なおもちで言って、お辞儀する。

 ……!

 ホントウにお姫様ってカーテシー(片足を少し引いてスカートを軽く持ち上げてお辞儀するやつ!)するんだ! 

 本物のお姫様って感じ~

 

 

 

 

 

二話「マエストロハツネ爆誕!」

 

 先程まで居たコンサートホールのような場所から外に出るとそこは高台の上で、そこから異世界──メルソフィア国の風景がよく見えた。れいな海が見える。すぐ近くに街も。周りには木々が沢山。

 そんな異世界の最初の感想は──香りがすごいということだった。

 日本──というか、地球? 現実世界? どう表現するのか正解がさだかではないので便べんじょう元の世界とするけど、元の世界とは全く違う匂いだったのがとても印象的。

 知らない植物の香りなのか、知らない土地の香りなのか、異世界特有の香りなのかはわからないけど、初めてぐ香り──スッキリとしていてか『懐かしい』気持ちにもなる、とても僕の好きな匂いだった。

 太陽が二つあったりとか、空に島が浮いている場所に居たりとか、急に目の前にドラゴンが現れたりするとか、そういう視覚的な異世界感がないのは少し残念だけど。

 しかし、目の前にそびえ立つ白い大きなお城を見ると「やっぱり、異世界だなぁ~」という感じはする。古いお城なのか、所々欠けていたりはするけれど。

 元の世界では見ることのない立派なお城をあえて僕の全くないりょくで表現すると──千葉にある夢の国に来た感じ。

 なんて思っていると僕の頭の上に乗っているルキがボソッと、

「各所にはいりょを感じる表現だね。もっとこう普通にディ──

「僕の配慮をにしないで

 慌ててルキの言葉をさえぎる。

 ギリギリセーフだったぁ……。いや、アウトかも……。

「ディスコって」

「ルキはディスコを夢の国だと思ってるの

 しかも千葉の

「ディスコはいいよ~音楽に乗って自由に踊る。それだけ。まさに夢! 望み! ゴー

「行ったことないよね

「ふっ。猫に行けない場所はないよ」

「……それはホントウにそう!」

 家の中でも何故そんな場所にっていう場所にいるし。え、じゃあホントウなんだ……すご。

 そんな僕たちのやり取りを見て、またお姫様がとても上品に微笑ほほえんだ。

「ふふふ。かいなお二人がメルソフィアに来てくれてうれしいです!」

 そのまま続けて、

「そうです、こちらが私の家──『アモローソ城』です。どうですか? ちょっと色々ありましてろうきゅう化が激しいですが」

 と言う。

「僕、本物のお城見るのは初めてなので感動してます! すごいなぁって」

「ふふ、あとでお城もご案内しますね! 召喚のこととかも──色々事情をお話ししたいのですが、どうでしょう。マエストロさまにはこの国のことをまず知って頂けたらと思うので、少しついてきて頂いてもよろしいですか?」

「そうですね! 僕もこの世界のこと詳しく知りたいです。さっきの──魔法みたいなこととか、色々」

 僕は笑顔でお姫様にそう返した。

 元の世界に戻れるのかなとか、このままだと元の世界で僕が行方不明になって両親や友達を心配させてしまうんじゃないだろうかとか、これからどうなるんだろうとかもちろん色々不安なことはある。

 でも、それより──あの『音』や、不思議な楽器のこと、さっきの魔法みたいな現象のことを単純に好奇心で色々知りたいなと思った。

 僕の応えにお姫様はあんしたようにホッとひといきいてから、

「ありがとうございます! ではこちらへ!」

 と、少し先を歩いてから振り返り、可愛かわいくちょいちょいと手招きする。

 少し幼く感じる素振りではあるけど、お姫様らしからぬその素振りはとても可愛く思えた。

 そんなことを考えながら高台の上にそびえ立つ巨大なお城を背に、ここからでもよく見える城下町の方へ歩きはじめる。

 謎にごげんなルキが、僕の頭の上で鼻歌交じりヽヽヽヽヽに僕の頭をにぎにぎしているのが少し気になるところだが、城下町に向かう道中、お姫様の事情を色々教えてくれた。

 お姫様の話を要約すると──

 

 ✯ ✯ ✯

 

『ルキとメロコの! メロディコイロハ~!』

「ハツネの要約は長そうなので、ボクことルキとメロコ姫でこの世界のことを解説していくね」

「いきなり呼ばれての急展開でびっくりですが! 助手として私もやるます!」

「そうそう、急展開っていう領域を今展開してるんだよね。この空間では自由にしてね」

「なんですかそれ ……ところで、メロディコイロハのメロディコって?」

「え? 知らない」

「知らないんだ……自由だ……」

「深く気にしないことにゃん! ではまずこの世界のことから。ここは地球とは別の星『フィルイン』と呼ばれている場所なんだ。そこの小さな島国──メルソフィア国のお姫様がメロコ姫なんだよね」

「そうです。フルネームはソフィア・メロコです! よろしくお願いします

「そしてこの世界では音楽が魔法になる、ってことであってる?」

「はい、私たちはその音楽の魔法のことをBGM(バフギフトミュージック)と呼んでいます。魔法といっても火を出せたりするわけじゃなく、文字通り身体にバフをけることや、先程マエストロさまが見せしてくれたような一種の幻覚を見せる魔法だと思って頂ければ」

「ハツネがこの異世界フィルインで言葉が通じているのも実はそのBGMのおんけいを受けてるからってわけだね。身体バフ──パソコンから聴こえてきたメロコ姫が奏でた『ぴろぴろ~♪』がほんやくミュージックになってるにゃん」

「そうなんですか

「メロコ姫が驚かないで? 召喚すると言語の弊害が出るからもともと付与されている魔法だと思うよ。……あれ? でも、この世界は音楽が全て魔法になっちゃうの? それだと色々困ったりしない? 不意に幻覚見たりしたら怖い!」

「いえ、どんな音楽でも魔法になるというわけではありません! ある一定の『がくりょく』を持つ方の『音楽は魔法だ』という強い気持ちに音楽がかんのうしてバフを生み、魔法となって具現化される──と、言われています。まだまだ解明できてないこともいっぱいあるそうですが……。なので『普通の人』だったり『気持ちがない音楽』では魔法は発動しません! たぶん!」

「なるほど~だから気持ちの強かったメロコ姫の召喚音楽魔法は成功したのかな。楽力もあったようでよかったね」

「あってよかったです! それに気持ち『だけ』なら私、誰にも負けませんので! るん!」

「そうだよね、演奏はすごく下手だったもんね」

「う……。それには理由があるんです……聞いてもらっていいですか……?」

「仕方ない、聞いてあげる」

「……あの……その理由こそがマエストロさまを此処に召喚した理由になります……。実はこの国、メルソフィア国は今──音楽を失っています」

「……音楽を失う。それはただ事じゃないにゃん。え、待って。本当になんで? メルソフィアはもともとメルソフィア音楽──魔法音楽はっしょうの地として栄えた国にゃん」

「はい……そうです。元々音楽で栄えた国で、有名な作曲家、演奏家、楽器職人──マエストロが沢山居たそうです。ですがここは小さな島国で……その有名な方々は大国や強国に連れていかれたそうです。いつの日かこの国にはマエストロが誰一人いなくなり──この国から音楽は失われていきました。その結果……この国は今、しょうめつの危機におちいってます……」

「……それは辛すぎる……だからメロコ姫はあんなに下手っぴだったんだね……誰も教えてくれる人がいないから……わいそうに……」

「そうなんです……でも、私はヽヽ音楽が本当に好きで! 立場的に隣国で音楽を聴く機会は何度もありました。そこで聴いた音楽は本当に素晴らしくて……! そして音楽にはやっぱり力があるんだと感じました。だからその力を借りて──この国を変えたいと思って伝説の召喚音楽を使ったというわけです。メルソフィアに伝わる伝説によると『召喚されたマエストロがこの国を救うだろう』ということでしたので。さいわい昔の資料は沢山ありまして、そこから何とか……という感じです」

「にゃるほどね。それでハツネが選ばれたと」

「はい。その……でも、私も召喚音楽のことは詳しくなくて……実はもっと別世界から神様的な存在が召喚されるのかなと思っていましたが……常に光ってて偉そうな感じの……。ハツネ様のような──私たちと変わらぬ方が召喚されるなんて思ってなくて……。この国を救って欲しいというこちらの一方的なお願いをしてしまっていますが……大丈夫なのかな……」

「それはハツネに聞いてみないとね! まあハツネならいい返事をしてくれるはずだよ! ハツネだからね!」

「! そうですね! ちゃんともう一度聞いてみます!」

「じゃあ今回のメロディコイロハはここまで!」

『まったね~!』

 

 ✯ ✯ ✯

 

 ──というわけなんだけど、僕の要約を二人とも聞いていたように思えない……何故だろう。

 まあいいか!

「そういう理由で……一方的なお願いをしているというのは重々承知なのですが……どうかお力を貸して頂けませんか……?」

 まだまだ城下町へ向かう道中──お姫様はとてもお辛そうな顔でそう言った。

 正直。

 正直なところ、ホントウに僕でいいのかというのが一番思うところだった。僕より音楽の才能がある人なんて、それこそごまんといる。五万じゃきかない──僕なんて最下層だろう。

 素晴らしい音楽家の両親や、僕が最も尊敬する作曲家の有真さんの方が絶対に適格だ。

 そういう意味ではもう一度召喚する方がいいのではないかと思うので聞いてみた。

「その、僕より優れた人を僕は沢山知っています。僕にはまだ役者不足かなと自分でも思うので……もう一度召喚とかは出来ないのですか?」

 僕の問いにお姫様はとても困った顔をした。

 う……そのお顔は僕の心にくるものがある。相手がお姫様だからだろうか。失礼があってはいけないという気持ちが強い……!

「その……伝説によるとマエストロを複数呼ぶのはきんとされていて……。もし禁を破れば逆に災害が起こると……世界がこりゃさいわいと怒るのかも……」

「なるほど……それは破るとマズイですね……」

 みょうにギャグっぽいことを言って雰囲気をなごまそうとしてくれているお姫様のこころづかいに感謝しつつ、僕はほぅと息を吐き一旦を止めて考えた。

 お姫様も僕に合わせて歩を止めてくれたようだ。

 そういう話なら──

 

 僕がやるしかない!

 

 と、僕は思う。

 目の前の可愛いお姫様の悲しい顔を見たくないというのも勿論あるし、僕なんかを頼ってくれているのだ。絶対に放っておくわけにはいかない。

 それにポジティブに考えたら「伝説の召喚音楽が僕を選んでくれた」と考えることだってできるのだ! それは素直に嬉しい! 選ばれし子どもなんてときめかずにはいられない! どんな人も一度はあこがれたことがあるはずだよね!

 なら──選ばれし子どもとして頑張るしかないじゃないか、と。

 それと、気になることもある。

 あの『音』だ。

 さっき自分で吹いてみてわかったのだけど、僕が以前聴いたあの『音』──とは少し違ったみたい。でも、よく似た『音』には違いないと思う。あの『音』を聴いたときと同じように、興奮した気持ちが今も僕の中に残っている。

 だからきっと、あの『音』はこの世界に存在するんじゃないかと思うのだ。

 別に記憶を戻したいとかではないのだけど、もう一度聴いてみたいと僕は強く思う、願う。

 それにもっとこの世界の『音楽』にも触れてみたい。音楽の魔法のことも知りたい。

『音楽の魔法』、異世界の『音』や『楽器』に沢山出会いたいという好奇心。

 その気持ちが一番強かった。

 そしてなにより、僕のゆうめいは『音楽の依頼は断らない。素敵な音楽を誰かに』だ。

 だから──お姫様のお願いを断る理由はなかった。

 現状、元の世界に戻れるかもわからない。こういう展開のときってアニメとかだと訪れた世界を救わないと元の世界に戻れないというのが基本だし。

 元の世界のことは心配だけど……お姫様に元の世界に戻れるかなんて今聞くのもこくだし、また困った顔をするのも見たくないので今は元の世界のことを考えることをやめよう。

 戻る方法は自分で探せばいいとも思うし。異世界に来たのだ──帰る方法も必ずある。

 そんな僕の気持ちを察したのかルキが頭の上から小声で、

「……きっといつか、ちゃんと元の世界にも戻れると思うよ──と、猫の勘が言ってる。猫の勘はすごい当たるからね」

 僕を安心させようと優しく言ってくれる。その言葉に僕はとても勇気をもらえた。

 そうだよね、ルキも一緒に居てくれるのだ。

 僕は──一人じゃない。

 今やれることを、必死にやろう。ずっと、そうやって生きてきたと思うし。

 僕は、

「フリオーソ! 救うなんて簡単に言えないけど、僕の音楽を誰かに──みんなに届けることはできる。少しでも力になれるならそのお姫様のお願い、僕で良ければ手伝わせてください

 と、真剣に、力強く伝えた。

 それを聞いたお姫様は──立ち尽くしたまま、ぽろぽろと涙をこぼして泣いていた。

「ありがとう、ありがとうございます、マエストロさま……こんないきなりのお願いを……」

「あ、いや、その、泣かないでください……ぼ、僕はお姫様の、み、味方ですよっ! みかんかも!」

 女の子の涙に耐性がないのでこつにあたふたして意味不明なことを言ってしまう僕。

 そんな僕をねてか、ルキがすけしてくれた。

「そうですよ、メロコ姫。ハツネがこの国のお姫様を泣かせた国家反逆者としてボコボコにされたらどうするんですか」

 慌てて涙をぬぐいながらお姫様は言う。

「そ、そうですね! ごめんなさいマエストロさま! その──じゃあ、私より立場がすっごい上ということにしましょう! これからは伝説のスーパーマエストロさまとお呼びしますね!」

「何故 いや、その、僕その『マエストロさま』という呼び名もそうおうというか……だから普通に呼んで頂けたらと思ってるのですが……」

「そうですかぁ……かっこいいと思ったんですがぁ……。では対等の立場はどうでしょう? 私はハツネとお呼びして私のことはメロコと呼んで頂けたら。それと、もっとフレンドリーな感じに接してくれたら嬉しい──だから、お友達です! それなら私を泣かせても大丈夫!」

「泣かせたりしないですけど う、うーん……」

 と、僕は悩む。

 とても嬉しい提案だった。でも、やはり──

「お姫様の提案はすごく嬉しく思います。ですが、僕はお姫様の『依頼』を受けた側。なので、僕はお姫様に仕える身です。だから僕は『お姫様』とお呼びしますね」

 僕がそう言うとお姫様はとても悲しそうな顔をした。

 ですが──と僕は続ける。

「フレンドリーな関係は音楽の世界ではとても重要だなと思っていて。よかったら──僕は仕える身だけど『お友達』になってくれたら嬉しいです! 気を遣わずにしゃべってくれたらなって」

 僕がそう言うと、ぱぁーとお姫様の顔は明るくなった。

「え! 嬉しいです! あ、じゃなかった! 嬉しい! じゃあ私たちはもうお友達だね、ハツネ! ついでだから実は昔、出会ったことのあるおさなじみのお友達ってことにしよっか?」

「僕の過去をねつぞうしないで

「私たちはひみつのお友達──シークレットフレンズ」

「…………それはとてもいい響き! それでいきましょう!」

「あはは」

 僕の謎返答に笑ってくれたお姫様の笑顔は──すごく可愛くて、綺麗で、眩しかった。

 そんな笑顔で、立ち止まり、「えへへ」といった感じに手を前に出されたら、その手をにぎる選択肢以外生まれない。

 これは異世界でも共通なのかな。

 お友達の証なのだろう──僕らは固い握手を交わす。

 ちょっといきなり距離感近いなとは思ったけど(ドキドキする)、そういう明るい人柄なのだろう。

 お姫様はとても満足そうに一つうなずいてから僕の手を離し、また歩き始めた。

 僕もそれに歩を合わす。

「うん! もうこれでかんぺきお友達だね。でも『お姫様』ってのわぁ、ちょっと固いしお友達っぽくないよね。メロコがダメなら『メロコちゃん』とか『姫』はどうかな? あだ名っぽく」

「そ、そうだね。でも、馴れ馴れしすぎるのも良くないと思うから……じゃあ一歩踏み出した感じで『姫さま』ってこれからは呼ぶようにします──あ、呼ぶようにするね」

「んー、まあ、強制もよくないし……じゃあ、馴れ馴れしく『姫さま♩』って呼んでね」

「ん? おん

 どういう感情の表現

 いや、姫さまの発し方で理解出来たから馴れ馴れしい感じは♩で表現できるのかも……。

「あはは冗談だよ♪ ふふ、ありがとうハツネ。それに──私のお願いのことも聞いてくれて」

「……まだ僕に何ができるのかわからないけどね」

 僕が苦笑してそう言うと、頭の上でルキが「ハツネの音楽をみんなに聴かせるだけでみんな幸せになるよ」と、ふふんと得意気にごうした。

 僕の音楽への過大評価がすごすぎる。嬉しいけど。

 ルキのそんな言葉を真に受けたのか姫さまが「たしかに」とつぶやしんみょうな顔をしたと思ったら、

「それじゃあ、早速人を集めて音楽会をしましょう! てかやる! みんなにハツネのすごい音楽を聴いて欲しい! この国の人は音楽のことを好ましく思っていない人……若い人は音楽を聴いたことすらない人も沢山いるの……色々──あって。そういう人にも『音楽』を受け入れて貰いたいから!」

 と、唐突に言う。

 いや、唐突すぎる!

「そんな急に人を集めて音楽会とか出来るの

「ハツネ……私、自分で言うのもなんだけど、メルソフィアの人達は私のことすごく信用してくれてるの! お願いしたらきっとすぐ集まってきてくれると思う! そうと決まれば街で呼びかけなくちゃ! 私、先に行ってるね! ここ! 真っすぐ進めばいいから

 そう言って姫さまはものすごいスピードで駆け出していった。

 魔法の力など不要と言わんばかりのスピードで。

 たぶんダチョウより速い。すごい。

 

 

 

 

 

三話「初めての異世界は思ってたよりボロボロ

 

 メルソフィアの城下町は思っていたよりさびれた街だった。

 異世界の街と言えば──アニメで見るような西洋風のいしだたみの道にれん造りの家がれいに並ぶ場所で、街は人であふれ、てんしょうが至る所にいたり、すごい装備をした勇者様ご一行が沢山いるのかと思っていたけど……全くそんなことはなく。

 道は石畳だけどキチンとそうされていると言えず、石が欠けているところが沢山ある。

 街に並ぶどの家も築何年なんだろうなぁと思うくらいには眼に見えてろうきゅう化している。

 人も全然いないし、もちろん勇者さまご一行なんていない。

 道中きんいろかっちゅうを身にまとった人にえるかもとか、謎にしゅつの高い魔法使いみたいな人に逢えるのかもとちょっとドキドキしていたけど、ちょっとかたかしという感じ。

 しかしまあ、姫さまが道中話してくれた『この国のしょうめつ危機』というのも深くうなずけるほどに寂れている──そう僕も感じた。

「簡単な話だよね。音楽が魔法になる世界で音楽がない国は全てにおいて他国の劣化版にしかならない。どんな産業も魔法で効率をあげてるんだよ。それが出来ないから──寂れる」

 と、ルキが僕の頭の上で説明してくれる。

 僕は「なるほど」とつぶやいた。

「財政難なんだろうね。あのお城もけっこーボロかったし」

「……僕の音楽でどうにかなる話なのかな……?」

「違うよ、ハツネ。どうにかするんだよ。あの姫様のお手伝い──するって決めたんでしょ?」

「……そうだね。うん、最初から弱音をいてちゃいけないよね! 頑張るよ」

 ルキとそんな会話をしながら僕らは街の中を歩いた。

 街の人とはホントウにすれ違わない──時々すれ違う人もへいを恐れず言えば活気がなく、決して綺麗な身なりとは言えない人ばかりだった。

 人が居なくなり、こんな風に寂れてしまったのだろうか……と、心配に思っていたが──それは少し違ったようだ。

 街の中央──その広場にかなりの人が集まっていた。

 この街の人のほとんどがに集まっているのではないかと思うほど──ろうにゃくなんにょ二千人くらいは集まっているように思う。

 その中心に姫さまがいた。

 よくここで集会などをするのだろう──広場の中央に備えられたお立ち台に姫さまが立ち、その周りを街の人が囲んでいる。

 僕もその円の一番後ろに並んだ。

 姫さまのスピーチが始まる。

「みなさーん! 突然ですが今日このあとお城で『音楽会』をしようと思ってます~!」

 姫さまがうれしそうに大声で言うとちょうしゅうはざわついた。

 先程姫さまが言っていた「音楽のことを好ましく思っていない」ということをにょじつに表したような不穏さを感じる。

 それでも姫さまは先程の大声より数倍大きい声で、

「ぜ~ったいに来てください! 最高の音楽をお届けしますので! 絶対楽しいです! 私、お城のホールで待ってます!」

 と満面の笑みで言う。

 その声で──

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 と、聴衆──否、ファンが一気に盛り上がった。

 姫さまは大人気だった。

「嫌いより好きが上回ればこうなるってことかな。メロコ姫はちゃんと姫としてのようがあるね。あとアイドルとしての素質も」

 ルキがしみじみといった感じで冷静に分析していた。

 僕もその意見に異論はない。

 姫さまが自信たっぷりに言っていたように、この国の人は姫さまのことが好きなのだろう。その姫さまがこの国を救いたいと強く願う姿を見て、僕も期待に応えたいと強く思うようになった。この国の人にも──音楽を好きになってもらいたい、とも。

 と。

「メロコ姫さま

 僕の背後から、張り上げた声が聞こえた。

 振り返れば──よろいを着た大人達がぞろぞろと歩いてきたのだった。

 鎧──というよりアレは……ぞくに言うビキニアーマーだけど。

 その鎧を着た人達(三十人はいると思う)はそのまま広場に集まった聴衆をかき分け、姫さまの前に立つ。

「民を集め、何事かと思って来てみれば──知っているでしょう! 音楽に関する全ては禁止されていますよ! それが例えメロコ姫さまでも許されるわけではありません!」

「……いいえ! やるます! 今日からその禁止令はなくなります!」

「なんと! 初耳ですが! グランディエ王妃の命ですか?」

「いえ! 今! 私が決めました! 貴方あなた達も来てください!」

「……それはいけません! グランディエ王妃に報告させて頂きます!」

 そう言って、鎧を着た人達はぞろぞろとまた聴衆をかき分け、お城の方へ歩いて行く。

 先程聴衆から感じた活気は消え、また場に不穏な空気がただよ──が。

「絶対! 絶対に! 音楽会をやるます! 私、今から母に伝えますので! 絶対来てくださいね! 本当に素晴らしい音楽をお届けしますから!」

 姫さまがそう言うと、また場は盛り上がっていた。どうやら姫さまが活気の源みたい。

「びっくりしたね。ボクは急に変態の人達がおそいに来たのかと思ったよ」

 ルキが僕の頭の上でそう言葉をらした。

 その話、するんだ……スルーしようと僕は思ったけどり下げるんだ。

「ボク、ビキニアーマーって女の人限定装備だと思ってたよ。筋骨隆々のおっさん達も着るんだね。アレも財政難だからかな? 普通の鎧も作れないとか悲しいね」

「ルキはどこからその知識を得ているか謎だけど……いやまあ、僕も最初は驚いたけどね」

 おっさん──失礼、男性のビキニアーマーで文字通りの異世界を感じるとは……。

 知らない世界、というより全然知りたくなかった世界だ……。

 ある意味異世界……。

 なんて──ルキとそんな話をしていると、姫さまが慌てた様子で僕たちの所に走って来た。

「ハツネ! そういうわけだから! ごめん! 今から母様の所に行く! 色々急展開で申し訳ないんだけど……一緒に来てもらえる?」

「急展開、好きだよ」

 そもそも今日ずっと僕は急展開の連続だし。

 なので、今更どうということはない。あのビキニアーマーの人達が現れたことの方がよっぽど急展開だと思うし。何、あの人達 という感じ。

「えっと、お母さんを説得……しなきゃいけないんだよね?」

「そう! ハツネ! 話が早くて助かる! お願い! 一緒にどうか!」

 姫さまは両手を合わせて僕を拝む。

 そこまでしてもらわずとも僕に断る理由はない──音楽の仕事の依頼は最後までまっとうしたいので。

「勿論! 僕もこの国の人に音楽を聴いて貰って、音楽を好きになって欲しいしね!」

 

 * * *

 

 姫さまの家である『アモローソ城』に到着してからもとうの展開だった。

 まず、特に何の説明もなく王の間へ通される。どう考えても服装を含め怪しい人間の僕だったけど、特に警戒されることもなく姫さまに連れられ、即、王の間へ。

 そこで姫さまのお母様──グランディエ王妃さまと対面することになるのだけど、特に紹介されることもなく姫さまと王妃さまの口論が始まった。

「母様! 音楽会やるます! てかやる!」

「もう耳に入ってます。あのねぇ……貴女あなたもわかっているでしょう? 、この国で音楽に関することを禁止にしているか」

「わかってる。過去、音楽にたずさわっていた者がみんな連れ去られた──とか、色々あって! 勿論わかってる……でも、このままではメルソフィアは終わっちゃうでしょ それを──音楽なら絶対になんとか出来るの だからまず音楽会を開いてハツネの音楽を聴いて、触れて、音楽を好きになって欲しいの! ハツネにはその力があるから!」

「あのね、私も別に何もしてないわけじゃないの。ちゃんと現状の危機を乗り越えられるようにやってます。でもね、メルソフィアにとって音楽は『とくしゅ』で『特別』で──

「それもわかってる! でも! それで音楽を禁止にするなんておかしい! 私は音楽を希望にしたい! 母様が何を言っても! もうやるます! 準備しなくちゃいけないからもう行きます! 行こ、ハツネ!」

 姫さまはそう言って、先に王の間をすたすたと出て行ってしまう。

 残される僕──どうすればいいのかと悩んでいるとグランディエ王妃さまが申し訳なさそうに声をけてくださった。

「はあ……ごめんなさいね、えっと──メロコが召喚したマエストロさま……で、合っているのかしら? 自己紹介も遅くなって──この国の王妃、ソフィア・グランディエです。この度は娘のメロコがご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「いえ! そんな! 迷惑じゃないですよ! 僕も自己紹介が遅れました。無音よばらずハツネと申します。姫さま──メロコ姫の依頼を受けて、メロコ姫のお手伝いを出来たらと思っています」

 僕がそう申し上げると──「ふふふふふ」と上品で高貴な笑顔を見せてくれた。

 その笑顔は姫さまに似ていて、姫さま同様にとても可愛かわいらしいお方だなっと感じる。見た目がすごく若くて、姫さまの姉と言われた方が違和感ないくらいだ。

 色々心労はあるのだろう……顔に疲れが出ているのははっきりとわかるけど。

「召喚なんてただの伝説だと思っていましたけど、実際目の前に現れると普通なのね。普通に好みの可愛い男の子が来た気持ち。私も挑戦しておけばよかったかしら」

「え、いや、その……

「ふふふ、ちょっとした冗談よ。寂れた国だけど本当は冗談も大好きな明るいお国柄なの──ということで許してくれたら嬉しいわ。貴方も突然召喚されて驚いてることでしょうけど、メルソフィアやこのお城で貴方に不自由はさせませんので、何でも言ってくださいね。そういうわけだから──音楽会もよろしくお願いしますね」

「え 僕が言うのも変ですが……その……音楽会、大丈夫なんですか?」

「あの娘はやるって言ったら勝手に何がなんでもやるんだもーん」

 だもーんって。

 急にフランクな感じになるグランディエ王妃さま。

 その辺も姫さまと似ている。

「まあ、それはあの娘のいいとこだと私も思ってるのよ。今の私には出来ないことだから。本当はね私も変えて欲しいのよ、この国を──ね。あ、ごめんなさいね、急に砕けちゃって──貴方が何故かとても親しみやすくて」

「そう言って頂けるのはとても嬉しいです! 気安くハツネと呼んで頂けたら」

「ありがとう──では、ハツネくん。ハツネくんも気を遣わないで大丈夫よ。そういうことだから、音楽会よろしくね。……立場的に言っちゃマズイけど──私も本当は貴方の音楽を聴いてみたいのよ。ふふふ。楽しみにしてるわね」

「! はい! いい音楽を必ず!」

 王妃さまからも期待して貰えて僕はとても嬉しかった。

 ぜんやる気が出てきた。

 絶対に──音楽会、成功させる! 姫さま的に言えば、てかやる!

 

 * * *

 

 なんて。

 意気込んだものの……楽器も奏者もいない。

 姫さまに聞けば、姫さまがさっき使っていた『代々受け継がれてきたあの笛』以外ここにはないそうだ。

 ちなみに、そのときのやり取りがこちら。

「さっきはごめんね……本当は母様とも別に仲は悪くないんだけど、音楽のことだけは話が合わなくて……」

「……そんなことないと思うよ。グランディエ王妃さまも僕の音楽を聴いてみたいと言ってくれたし」

「ホント ……音楽会のことは何か言ってた……?」

「僕には楽しみにしてるからって言ってくれたよ。だから頑張ろ!」

「そう……なんだ……うん。私も準備頑張る!」

「それで姫さま、他の楽器ってお城に何かあったりする?」

「あ……楽器……やっぱりないと音楽会でき……ない……?」

 そんなことないよ! あればいいなと思っただけで……」

「もうメルソフィアにはさっき私が吹いていた──受け継がれし笛『アナイアレーション・ルート・トレイル・リアライズ・コート・ダグラム』しかなくて……」

「かっこいい

「長いから略して『アルトリコーダ』って呼んでるんだけど」

「あれアルトリコーダーだったの

「禁書では──

「禁書

「対になる『ソニック・プルミエール・ラヴ・ノーザン・リアライズ・コート・ダグラム』という──

「ソプラノリコーダーだよね

「え! すごい! なんでわかるの さすがハツネ! やっぱり伝説のスーパーマエストロだぁ……実は言い伝えには対の笛以外にも──

「テナーとかでしょ

「わ! すごい! ハツネってもしかして──笛の神 それでねそれでね──……」

 という感じで。

 この後、禁書に伝わる伝説のインフィニートリコーダの話が続いたけどかつあい

 興味深い話だったけど、まあ、この話はどうでもいいのです。他の楽器がここにはないことに変わりはないので。

 どうしたものか──と、僕は一人、コンサートホール前方ステージ上で悩む。

 勿論、笛だけでも『音楽会』をやりとげることは可能だけど、果たしてそれで盛り上がるのか──というのがやっぱりちょっと不安だ。

 この『音楽会』は──姫さまの願いを叶える第一歩。

 

 ──この国に音楽を取り戻したい。

 

 だから……失敗は出来ない。

 絶対に成功させたい──という気持ちだけ先行して、僕は悩むしかできないでいた。

 むー……。

 悩みながら現状報告。

 僕たちは『音楽会』の準備中。グランディエ王妃さまが折れてくれたこともあり、姫さまの指示のもと、お城に仕える数多くの使用人の方々があっという間に綺麗に──僕が召喚されたときとは打って変わって見事な……今からお姫様の婚約者を見つける舞踏会でもするかのような会場へと変わっていた。

 僕もガラスの靴を履いて参戦したいくらいだな──なんて思いながら、僕はステージ上から嬉しそうに、幸せそうに会場のセッティングをしている姫さまを見て、絶対にこの『音楽会』を成功させたいなと改めて強く思う。

 思うけど、どうしたら──と。

「ハツネ。考えすぎだよ」

 ルキが僕の頭の上でそう呟いた。続けて──

「BGM──この世界の魔法のこと、ハツネは理解してる? それを活用するんだよ。それが勝利の鍵にゃ

 と、鬼気迫って言う。

 そのあと何故か「ニャニャニャ! ニャニャニャ! ニャオニャイニャー」と陽気にうたっていたけど、僕はその歌をスルーして「……まだ、その、よくわかってないんだ」と返した。

 正直、僕はまだBGMのことはよくわかっていない。

 バフギフト――力を与えるということ。そういう音楽。理論や影響は姫さまに聞いてある程度理解はしたけど、僕はその感覚をつかめないでいた。

 姫さまと出会って吹いた『キラキラ星』は、たしかに僕の想像を超えるようなすごい世界を僕にも見せてくれたけれど、それが僕の音楽から生まれた魔法だというのは──まだ実感出来ていない。

 だって──僕はあのときいつも通りにヽヽヽヽヽ演奏しただけだったから。

 だから──それを上手く使うということがよくわからないのだ。

「にゃるほどね。やっぱりハツネは考えすぎだ」

 と、ルキはたんそく交じりに言ってから──

「BGMは音楽の魔法だけど、想いの魔法でもあるんだよ。ボクからの助言は一つ──ボクはハツネの『音』が聴きたいな。その『音』がきっと素敵な魔法になるはずだよ。だってハツネの音楽はいつもヽヽヽ素敵だから」

 優しくそう言ったかと思うとルキは僕の頭の上から飛び降り、姫さまの所に向かっていった。

 …………。

 僕はルキの言葉をはんすうする。

 僕の『音』──か。

 そうだよね。

 僕の想いがちゃんと伝われば、きっとこの『音楽会』を成功させることができるはず。

 BGM──想いの魔法か。

 そういうことなら僕は誰にも負けない自信が──ある!

 最高の『音楽会』にするともう決めたのだ。

 悩んでなんていられない──僕も最高の『音楽会』のために動き出す。

 

 * * *

 

 僕の出した答えは『みんなで楽しく』。

 その準備をしていると、会場の準備が終わったようで姫さまが僕の所にやってきた。

「ハツネ! 何してるの?」

 僕は姫さまの問いに、にこりと笑顔で答えた。

「姫さまにも一緒に演奏してもらいたくて」

「え 私

 驚く姫さまに僕は完成した太鼓を見せた。

 バケツと紙と棒で作った簡易的なものだけど。

 この世界に何があるのかまだ全然わかっていないのだけど、さすがにバケツと紙と棒くらいはあるだろうなと思って──あってよかった!

 それに笛しかない現状──一番笛に合うのはやっぱり太鼓しかないと。

 てきたい、二人──否、三人でも音楽隊が出来るしね。

「姫さまも一緒にやろうよ! 音楽は一緒にやるともっと楽しくなるんだ!」

「……でも、その、私、やったことないし……上手くできないよ……」

「大丈夫だよ! 太鼓は思うように叩いていいんだ。さっきルキにBGMは想いの魔法だって聞いてね。自分の想いを込めて叩く楽器だから姫さまにいいなと思って」

「わ、私にもできるの……?」

「絶対出来るよ! だって姫さまの想いはとても強いから。この国に音楽を取り戻したいという強い気持ちで叩けば、それはちゃんと音楽になってきっとみんなに響くし届くよ!」

「う、うん……! ハツネがそう言ってくれるなら! やるます! てかやる でも──この楽器の使い方、ちゃんと教えて欲しい! やるならちゃんと届けたい!」

「フリオーソ! 勿論!」

「あとね──私も盛り上げるためにと思って考えてたんだけど……」

 そう言って姫さまが僕に耳打ちをした。

「それはいいね! うん! どんな曲にしようか悩んでたけど、決まったよ!」

 何故耳打ちなのかは謎だけど──これでろうする曲の方向性も決まった。

 絶対に楽しい『音楽会』になると僕は確信する。

 

 * * *

 

 ある程度レクチャーしたところで姫さまがぽつりと、

「実は此処──音楽はっしょうの地とも言われている大切な場所なんだ。昔は毎日コンサートが開かれて楽しい場所だったんだって」

 太鼓をぽんぽんと優しく叩きながらそう呟いた。

 たしかに──寂れてはいるけどか神聖な場所だなと僕も感じていた。

 何処かで神様が優しく見守ってくれているような──そういう大事な場所だったのか。

「ここからまた──音楽が始まって欲しいな」

 姫さまのその言葉は少し寂しそうに聞こえた。

 音楽を失った国。

 それは僕としても寂しい。

「はじめようよ。まず僕たちで」

「……えへへ、そうだよね! はじめましょう! 私たち二人で!」

 と。

「二人~? さっきから二人でイチャイチャしてるけど、ボクもいるんだけど」

 ルキがいきなり僕の頭の上に飛び乗ってきて、冷たい声でそんなことを言う。

「わ い、イチャイチャなんてしてないですよ ね、ハツネ!」

「そうだよ、ちゃんと太鼓の正しい叩き方をレクチャーしてただけだよ。それに──

 僕は、作っておいた姫さま用の太鼓よりさらに一回り小さい太鼓を頭の上のルキに手渡した。

「もとより、ルキとも一緒にやるつもりだよ! これがルキの太鼓。確認してなかったけど──ルキ、できるよね?」

 ずっと僕と一緒にいたから太鼓くらい知ってるだろうし、謎のハイスペックさを見せつけてくれてるから勝手に太鼓くらい叩けるだろうと踏んでるけど。

 そんなルキは──泣いて喜んでいた。

「ハ、ハツネ~! 愛してる! 太鼓なんてボク、姫さまより上手に叩けるから! ボクが『アナイアレーション・ルート・トレイル・リアライズ・コート・ダグラム』を吹いてもいいくらいだよ」

「正式名称ちゃんと覚えてるの

 謎にハイスペック!

 ともあれ、これで僕たちの音楽隊は完成した。

 さあ! 楽しい『音楽会』を始めよう!

 

 * * *

 

 ホールに続々と人が集まってきた。

 僕たちはステージのそでから見ているのだけど、もうすでにホールは満杯といった感じだ。

 満杯──満席ではない。

 理由あってフロアには席を作らなかった。ホールには二階三階とあり、そこには座席があるのでゆっくりステージを見たい人は、お城の人がそちらへと案内している。

 しかしまあ。

 ホントウに姫さまの集客力はすごい。

 お城の人も含めると──五千人くらいは集まっていると思う。立派なアイドルの現場のようだ……!

 というか。

 やってやる──みたいに僕も意気込んではいたけど、ここまで大人数の前で演奏したことないんですが 小さい頃ピアノの発表会で百人くらいの前で演奏して以来だ……。

 そう考えると、規模の違いにちょっと震えてくる。

 でも、怖くはない。

 こんなにも人が来てくれていることに嬉しくなる。

 しかし、この人数──スピーカーもない会場で笛と太鼓の音が届くのだろうか……?

「そこでBGMの力だよ、ハツネ」

 僕の不安を感じ取ったのか、頭の上からルキがまた助言をくれる。

「BGMの力?」

「そう。まず身体強化のバフを僕たちに掛ける。一吹きですごい音を出せるバフとか一回太鼓を叩くだけで地の果てまで聴こえるようになるバフとか」

「そんなことまで出来るの

「それはハツネ次第だけどね。想いの力と、ハツネの作曲の力だよ」

「僕の作曲の力──

「悲しいメロディーに元気になれという想いを込めても上手く伝わらないのと一緒だよ。ハツネは得意でしょ? 場面にあった音楽を作るのが」

「……なるほど。それはたしかに僕が一番得意とするところだ。そうか、ここにいる皆にも身体強化バフ──小さな音色でも聴こえる魔法を掛けたらいいってこと

「ふふ、そういうこと。どう? この世界の魔法のこと、ちょっとはわかってきた?」

「……まだ、あの『キラキラ星』でしか体感してないからそれは何とも言えないけど──じゃあちょっと試してみてもいい?」

 僕は言って、軽く、そっきょうで笛を吹いてみた。

 僕の想いは──曲名『明鏡止水(Re:lucks)』とする。メロディーは安らかに、そのバフはいやしを──

 どうやら効果はちゃんとあったよう。

「さすがハツネ。すごくいい曲だよ」

「わぁぁ、すごい! 私、さっきまでずっとドキドキしてたんだけど、今は全然ドキドキしてない! すごい!」

 ルキはうっとりと。

 姫さまは胸に手を当て、じゃに飛び跳ねていた。

 じゃっかん二人に効果の違いはあったけど、成功と言えよう。

 その効果は勿論僕にもあった。先程までの変なこうよう感は落ち着き、今は目の前のステージを成功させようという気持ちが一層強まっているのをちゃんと感じる。

 体感してみてわかる。

 すごい魔法だな、と。

 BGM──バフギフトミュージック──音楽の魔法。

「僕もびっくりしてるけど、ちゃんと皆にも魔法が掛かってよかったよ! 緊張が一番音を弱くするからね。これで、絶対に最高の音を奏でられるよ!」

 僕の言葉に姫さまはにこりと微笑ほほえんだ。

「そうだね! 最高の音楽を此処にいるみんなに聴いてもらおう! じゃあ! 行こっか!」

 言って、姫さまはステージの中央へと駆けていく。

 同時にすごい歓声が響いた。

「完全にアイドルにゃん。この国どうなってんの」

 と、ルキがぼやく。

「ま、まあ、姫さま可愛いし。この国の人達の気持ちもわかるよ」

「はあ? ハツネの方が可愛いよ」

「何故僕を張り合いに

 そんなやり取りをしている間に姫さまがあいさつを済ませていた。

「みなさーん! 今日は来てくれてありがとうございます! 今日は──メルソフィアの音楽復活祭です

 やはりそこでまたざわついた。

 それ程に──音楽という存在からこの国の人は遠ざかっているのだろう。

「ここでご紹介します! 私が伝説の召喚音楽で召喚したマエストロさま──ハツネです!」

 僕はステージの袖でずっこけた。

 召喚したって。

 いや、魔法が存在する世界だからそういうのって普通に受け入れられているのかな……。元の世界でそんな台詞せりふを聞いたら中二病の人だと思われるに違いないけど。

 まあいいか。

 僕とルキもステージの中央──姫さまの所へ歩み寄る。

 特に拍手とかはなかった。

 なんならせいじゃくになったと言える。

 しかし、この一瞬の静寂は願ったりであった。さっきのバフのおかげだろうか──僕はこの好機を逃さず自己紹介代わりに笛を吹いた。

 僕の想いは──曲名『音響領域(サウンドヘヴン)』とする。メロディーはほがらかに、そのバフは──必聴!

 これでこの空間にいる人になら、この小さな笛の音も太鼓の音も絶対届く!

 自分で言うのもおこがましいが、僕の笛で会場の空気は一変したように思う。

 先程まで僕に降り注いでいた不穏な視線が(姫さまは変なやつにだまされてるんじゃないかという具体的すぎる視線が僕を突き刺していました!)今はなくなり、僕のことを期待してくれているように感じる。

 予定ではここで少し挨拶をするはずだったが──僕は予定を変更した。

 僕の挨拶なんて不要だろう。

 僕は音楽を続ける──気持ちを込めて笛を吹く。それに合わせて、姫さまもルキも太鼓を叩いてくれた。

 今回のテーマは『みんな楽しく』。だからホールのフロアには座席を作らなかった。

 そう──フロアの観客はスタンディング。

 姫さまが耳打ちしてくれた「私、踊るのは得意だから踊って盛り上げようかなって。それなら力になれるかなって思ってたんだけど」という話から、じゃあダンスパーティーをしよう、と。

 予想以上の客入りでちょっと動きにくいかもしれないけど──曲のイメージは舞踏会。

 ダンスミュージック!

 僕の想いは──曲名『躍動舞踏(ポンポンベイビーベイビー)』とする。メロディーは情熱的に、そのバフは──

 みんな! 踊っちゃおう

 

 ✧ ✧ ✧(僕の感想です!)

 

 まるでサイリウムの光の中にいるようだった。完全に自分自身がアイドルになったかのような錯覚におちいってしまう──いや、今、僕はアイドル(の横にいるバンドチーム)だ

 アイドル(の横にいるバンドチーム)っていつもこんなキラキラの中にいるんだなと感動してしまった。これが音楽の魔法の力──そう、今僕には目の前にいる観客一人一人が様々な色でキラキラ光るものに見えている。幻覚なのか現実なのかはわからないけど、そんなことはどうだっていいくらい目の前の景色が綺麗だ。

 踊るサイリウム──趣味のライブに参加することはよくあるけど、僕が行く現場では見ないものも沢山見える、聞こえる。

 あ、コールだ──とか。

 おお、あの人めちゃくちゃ跳ねてるな──とか。

 わわわ、あれはサイリウム五本持ち──とか。

 まあでもダンスミュージックだもん。そういうのもありだよ! 

 ルキが言っていたことがわかってきたかもしれない──ディスコには人の夢と人の望みがある。みんな、ゴーだね!

 そう! これが! 何でもありの楽しい現場! 

 踊って、狂って、ファンサもするよ

 キミと──一緒に

 アイドル(の横にいるバンドチーム)が最高の魔法を届けるよ!

 

 これが僕からの魔法だ!(チュッ

 

 ✧ ✧ ✧(僕の感想──終わり!)

 

 ……今ヤバいトリップをしていた気がする。

 アイドル気分だった……浮かれポンチすぎる。

 はあはあ……冷静になろう。

 僕は演奏を終え──ひといき、深呼吸する。

 準備不足もあり、特に沢山曲を用意していたわけじゃなかったので十分程で終わってしまったが、観客の皆さんから「おおおおおおおおおおおおおおお」というすさまじい歓声を頂けた。

 その歓声は──何よりも嬉しい。

 沢山の人が踊っていた。沢山の人が盛り上がっていた。沢山の人が楽しんでいた。沢山の人が──今、喜んでくれている。

 今までで一番の音楽体験かもしれない。

 癒しのBGMの効果を消すくらい、ドキドキだ。

 それは横に立つ姫さまも同様のようだった。

「ハツネ! 演奏って! 音楽って! 楽しい

 と、姫さまはとても幸せそうに──僕の方を見て顔をほころばせた。

 その顔を見たら、僕の嬉しい気持ちも更新される。満たされた気持ちでいっぱいだ。

 姫さまはそんな幸せそうな顔のまま前を向き、

「みなさーん! 今日は来てくれてありがとうございました

 大きな声で観客に感謝を述べる。

 勿論観客は「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」と、また大歓声。

「本当にありがとうございます! 今日はここで終わりです!」

 姫さまがそう言うと、まさかのブーイングが起きた。

「えー! 今来たばかりー!」それはそう。てか、どの世界でもその返しは共通 他にも「短いよー!」とか「メロコ姫こっち見てー!」などなど。

 色々なブーイングに交じり──否、そのブーイングをかき消すように、

「アァァァンコォォォォォォォルゥゥ!」

 と。

 厄介オタク!?

 そう思う程の大声を最前中央の人が出していた。