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はぐれ星のうた

Special

山崎詩央里(イラスト)×佐藤綾乃(ストーリー)
対談インタビュー
前編

音楽CD付き絵本『はぐれ星のうた』のイラストを担当したのは、京都アニメーションでアニメの美術背景を手掛ける山崎詩央里さん、ストーリーを担当したのは同社で脚本や文芸を手掛ける佐藤綾乃さんです。
新企画に挑戦した若手2人に、制作秘話やどの様な想いで作ってきたかなどを語っていただきました !

“やってみたい”から始まった新企画

—企画の話を聞いた時は、どの様なお気持ちでしたか?

最初にお話をいただいた時は、Evan Callさんのイメージ資料と絵本のようなストーリーブックとしての構想があり、純粋に面白そうな試みだと思いました。直近で『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の公式ファンブックを制作していて、監督の石立太一さんや音楽のEvan Callさんとやり取りをさせていただく機会があったので、新企画の座組を聞いたときは「ぜひ参加してみたい !」という気持ちでした。参加は社内の数名が出したアイデア案からコンペティション形式で決まり、そこからプロットやストーリーを担当することになりました。

私が参加した時には佐藤さんが文章を担当することが決まっていて、最初に佐藤さんが書いたプロットやEvan Callさんのイメージ資料をもらいました。当時の私はコンセプトアートやカラースクリプトなど当社の背景セクションの業務では行っていない工程をやってみたい気持ちが強い時期で、その気持ちを部署内で発表したり周りに伝えたりしていたら、「こんな企画がありますけどやってみますか?」と新企画のお話をいただきました。

—石立太一さん(ディレクター)からも山崎さんのお名前が挙がっていたとか。

この企画が始まる前に、何度か山崎さんの絵を拝見する機会があったのですが、背景だけでなくキャラクターも描かれていたので、こういう雰囲気の絵も描かれる方なんだ !と新鮮に感じていました。

自分としても打ち出していた時期ですね(笑)。
お話をいただいた時は、やってみたかったことだったので嬉しかったです。

少年たちを繋ぐ楽器

—原案・音楽のEvan Callさんからはどのようなお話がありましたか?

特に印象的だったのは楽器の話ですね。
ラズリが楽器を弾く設定はプロット段階からありましたが、特にどんな楽器を弾くかまでは決めていませんでした。打ち合わせの中で、Evan Callさんが“ターゲルハルパ”という北欧の楽器を実際に弾いて音を鳴らしてくださったのですが、その時「シンプルな作りの楽器だからこそ、弾く人によって音色や表現が変わる」とお話しされていたのがすごく印象的でした。元々、ストーリーを走らせるためのギミックとして楽器を設定していたのですが、そのお話を聞いてからラズリとエデンを繋ぐ楽器としてプロットを調整していきました。

その後、ターゲルハルパをニッケルハルパに変えたんですよね。ターゲルハルパの音色は低音で素朴な感じがとても素敵だったのですが、小さい男の子が弾くには少し渋い印象でした。そこでEvan Callさんから「“ニッケルハルパ”という楽器もありますよ」と教えていただいたんです。ニッケルハルパは華やかな音色で、ややメカニックな感じの見た目が絵的に面白いと思いました。少し厳つい楽器を小さい男の子が持っているギャップもあって、ニッケルハルパも良いですねという話になりました。

小さい子どもの宝物のような
希望の象徴

—ディレクターの石立さんからはどのようなお話がありましたか?

“新しい形のストーリーブック”というイメージのお話がありました。
イラストだけのページがあったり、白黒やカラーのページが混ざっていたり、詩集や白紙のページがあっても良いとか、要するに「何でもありですよ」といったことを伺いました。正直なところイメージが湧かなかったんですけど、打ち合わせを重ねる中で石立さんが種類の違う色々な紙が1つに綴じられている本の話をされていて、凄く良いなって思ったんですよね。
ストーリーとしては一貫しているけど、絵としては色々な表現や技法をあえて同居させるイメージに繋がりました。

ストーリーでは、プロットを読んだ石立さんから「物語に奥行きが欲しい」や「読んだ後に未来に希望を感じられる余韻みたいなものをプラスしたい」というお話がありました。初期のプロットはラズリとエデンだけの物語で、前後の現代パートは無かったのですが、石立さんからのお話を受けて前後の現代パートや青い木の実の要素などを追加しました。

—青い木の実は表紙や裏表紙でも描かれていて印象的です。
なぜ青い木の実になったのでしょうか?

希望の象徴が欲しいと思っていたので、過去と未来を繋ぐものとして木の実を入れました。

初期のプロットには青いバラがあって、それが青い木の実になったように思います。
1つ象徴的なものがあると全体がまとまるので、青い木の実を沢山入れようと思って色々描きました。

青い木の実のイメージは特に文章で書いていなかったのですが、どうやって考えたのですか?

架空の植物を考えました。
ラズリの目がラピスラズリのような色とあったので、少し固めの、コロッとしたどんぐりみたいなフォルムにしています。キラキラ光ると書いてあったので、ちょっと特別な色褪せない感じの木の実をイメージしました。
どんぐりって小さい子どもが宝石みたいに集めますよね。

音楽×イラスト×ストーリーで
作る“ライブ感”

—イラストとストーリーは、具体的にどの様な取り組みから作り始めていったのでしょうか?

初期のプロットやEvan Callさんからの資料を元にビジュアルイメージを描いて欲しいと言われて、後にキービジュアルになるイメージイラストやキャラクターのイメージラフを最初に描きました。ラズリやエデンのキャラクターのイメージは概ね合っていたので、佐藤さんから改稿した文章をいただいて少しずつ変化をかけつつ、どんな舞台にするか悩みました。まったく新しいオリジナルの舞台を作る仕事は経験したことがなかったので、そこからどうしようという感じでしたね。“北欧”とか初期のプロットで“廃墟”といったキーワードがあったので少し退廃的な雰囲気を意識しつつ、人間の世界と森の住人の世界がどんな感じか考えて、とにかくラフスケッチをたくさん描きました。あとは企画のメンバーに見せて、良いところはそのまま活かしながら少し違う感じのところは練り直してイメージを固めていきました。

ストーリーでは、Evan Callさんから伺ったテーマに「友情」「愛」「信頼」「辛さを乗り越えること」など、いくつかのキーワードがありました。それらの要素を自分なりに解釈して、地に足がついたお話になるようにプロットを練っていったと思います。あとは“絵本”として絵から得る情報と、文章から得る情報がかち合わないように意識していました。
特に時代背景などの細かい部分は文章で触れていなかったこともあり、イラスト制作時は大変だったのではないかなと思います。

そうですね。
物語の舞台が文章で詳細に語られていなかったので、とりあえず私から出した案で何か引っ掛かるものを使ってもらえたらと思っていました。
とにかくアイデアを出していた感じですね。

こちらもイラストのアイデアを文章に反映していたので“ライブ感”がありましたね。
その間に着々と音楽も進んでいて。このシーンの曲は少しポップだけどイラストとストーリーはこの感じで大丈夫かなとか、この曲は明るいからイラストとストーリーも少し明るくしようとか。
それぞれの良いところを吸収しながら、文章も改稿していきました。

石立さんからも1つの柱に対して作っていくというよりは、三権分立みたいな……例えば文章に対して音楽や絵を付けていくのではなくて、音楽・イラスト・ストーリーのそれぞれ柱があって互いに影響を与えながら作っていってほしいという話がありましたよね?

ありましたね !

そんなライブ感で作っていきました。

最初にテーマだけは共通の認識にして、取り入れる要素を交換しながら作っていったと思います。

—前編では企画の始まりから振り返ってお話を伺いました。後編ではさらに、これまでにない挑戦やこだわりなどを語っていただきましたので、ぜひお楽しみください。