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はぐれ星のうた

Special

山崎詩央里(イラスト)×佐藤綾乃(ストーリー)
対談インタビュー
後編

音楽CD付き絵本『はぐれ星のうた』のイラストを担当したのは、京都アニメーションでアニメの美術背景を手掛ける山崎詩央里さん、ストーリーを担当したのは同社で脚本や文芸を手掛ける佐藤綾乃さんです。
前編に続いて後編ではさらに、これまでにない挑戦やこだわりなども語っていただきました !

“絵本”としてのイラストと
ストーリーのバランス

—イラストとストーリーでそれぞれ作り込んでいく際にどのようなお話がありましたか?

文章で背景描写を追加したところもありますが、絵で楽しんでもらう領域には入らないように意識しました。

ストーリーとイラストで住み分けをする意識はありましたね。
絵に描いているようなことをあえて文章で言及しなくても、2つあるから大丈夫かな?という感じで。

石立さんから「ロングショットで全体を見せてキャラクターに寄りすぎないように」というお話もありましたね。

今回はアニメーションや漫画らしい感じをあまり出さずに、ちょっとニッチな感じが良いという話でしたね。
キャラクターがアップになったり表情が見えたりする感じではなくて、ロングショットでキャラクターがいる舞台ごと絵で見せています。

表情を見せる加減はギリギリまで迷っていましたよね。

そうですね。表情を見せているイラストはとても少なくて……表紙や最後の方くらいかな。

—では、どのように感情を伝えようとしていたのでしょうか?

そもそもイラストで感情表現をしようとはそこまで思っていなくて。それは文章を読んで感じ取れたら良いのかなと思っていました。あとは音楽が情緒的ですよね。例えば、廃教会でラズリとエデンが初めて出会うシーンの音楽(「Fate of the Stars」)は凄く泣ける感じだと思うのですが、そういった音楽でもキャラクターの心情が繊細に語られている印象がありました。自分のイラスト要素だけではなくて、文章や音楽で表現されているものがあるから、じゃあイラストは違うことをしようといったニュアンスもあった気がします。

初稿の段階では絵で見せる所との住み分けはせずに一通り書いていたので、文字数もかなり多かったです。
そこから、ここはイラストで伝われば良いよね、というところを削っていきました。
結果的にEvan Callさんが仰っていた「壮大な音楽を作りたい」という部分がロングショットのイラストと相まって良い感じにまとまったように思います。

チームで作り上げた物語

—これまでにない作品づくりはいかがでしたか?

アニメーション制作だと脚本を固めてから絵作りに入るのが一般的な流れですが、この企画ではイラストと音楽からインスピレーションを得て、影響を受けながらストーリーを作り込んでいきました。
企画メンバーと話しながら更新されていく感じが楽しかったです。

面白かったですよね。

物語の流れに関しては石立さんが客観的な視点でアドバイスをくださったので、その言葉を指針にしながら書き進めていました。

キャラクターのことも沢山話し合いましたよね。

何度も話しましたね。
ラズリとエデンがどこへ向かっていくのか、物語としてのゴールはどこなのか、など始まりと終わりの部分はたくさん悩んで話し合いを重ねましたね。キャラクターに関してはイラストと深く結びついているところでもあったので、よく山崎さんに相談していました。

絵だけで成立するものではないので、私も真剣に頭を悩ませていました。
物語で表現したいことを絵に落とし込むために、佐藤さんの話を聞きながら私も相談して進める感じだったと思います。

—具体的にどの様な話し合いをされたのでしょうか?

絵本の最後にある紙きれのメッセージは制作の最後の最後まで悩みました。ラズリとエデンが出会ってから旅をする点描のようなシーンは制作の後半あたりで追加されたのですが、あのページはイラストの後に文章を作りました。
あそこでのラズリとエデンの会話があったからこそ、最後の紙きれのメッセージが導き出せたんだと思います。

あのページはEvan Callさんからいただいた曲(「To Travel Beyond the Vale」)を聴いて、私が入れたいなと思ったんですよね。
この曲は楽しい感じで、それまで落ち着いたテンションで進んでいた物語に、ちょっと明るい雰囲気が場面としてあってもいいのかなと思って描きました。佐藤さんに見せたら文章が出てきて、最終的に絵本の最後にある紙きれのメッセージに繋がりました。石立さんからもこのシーンがあることによってこの物語で伝えたかったことが明確になったので、入れて良かったと言っていただきました。

新たな表現を試みる

—これまでにない挑戦はいかがでしたか?

普段のアニメーション制作では背景はあくまで流れていく映像の一部なので、時間がかかりすぎる方法は避けるんですけど、今回の新企画は静止した一枚絵で見せる必要があったので、そこはあまり気にせずに作業できました。当初から1枚で楽しめる絵が良いよねという話があったので、表紙も飾れるような感じを意識しています。
時間など度外視でとにかく今の自分がやりたい表現に挑戦したのがすごく楽しかったです。

実験的にアナログとデジタルの両方で描いていましたよね。

石立さんの最初のお話から、絵のテイストを揃えなくても良いと思っていたので、色々やってみました。タッチは鉛筆だけど他はデジタルで描いたイラストとか、アナログとデジタルを織り交ぜて両方使っています。
アナログとデジタルで分けないで総合的にどんな絵にできるか考えたり、いつもは使わないような描画ソフトの機能を使ってみたりと色々な表現を試したのが楽しかったです。

—大幅にイラストを描き変えたページもあるのでしょうか?

ラズリとエデンのパートに入る最初のページは、ラフと完成の絵で大きく変わりました。初期のラフは画面のほとんどが暗くて、ラズリが1人でぽつんとしている感じが悲しすぎて。
音楽はもう少し幸せな雰囲気でストーリーもどん底って感じではないから、もう少し温かい雰囲気が欲しくなりました。

初期の絵も好きだったのですが、描き変えた後の絵はラズリがどんな所で生活しているのかがより分かりやすくなりましたね。

初期の絵はラズリがさみしいことしか分からなかったんですよね。
ラズリとエデンのパートで最初に見る絵だから、もうちょっと情景を描いた方が良いなと思って。

ラズリの暮らしている環境や生活の雰囲気などは文章で細かく書いていなかったので、この絵になったことでよりイメージしやすくなったと思います。

世界観を描いている絵も少なかったので、もうちょっとあっても良いかなと思いました。

楽しみ方が自由な作品

—『はぐれ星のうた』のこだわりをお聞かせください。

Evan Callさんが英語で書かれた歌詞を載せることになったのですが、読まれる方の大半が日本人ということもあり、日本語訳も載せることになりました。そこで海外に住んでいたことがある社内スタッフと一緒に、物語に沿った和訳をさせていただきました。
ぜひ歌詞も読みながら聴いてみてほしいです。

音楽、文章、絵が三者三様であることです。
もちろん3つを一度に楽しむこともできますが、単体あるいは2つ抜き出して組み合わせると、また印象が大きく変わるかと思います。
要素を分解して楽しめるのはこの形態ならではだと思っていますので、そういった形でもぜひ楽しんでいただければと思います。

メッセージ

—最後に作品に興味を持ってくださった皆さん、そして受け取ってくださった皆さんへメッセージをお願いします。

『はぐれ星のうた』を手に取ってくださった皆さん、興味を持ってくださった皆さん、ありがとうございます。
音楽を聴きながら読み返すたびに発見があると思います。ぜひ何度も触れて楽しんでください。

人それぞれの小さな孤独の世界を1つ1つスケッチするような気持ちで描きました。
好きな絵も嫌いな絵もあると思いますが、1つでも皆さんの心に寄り添う絵があると良いなと思います。

—ありがとうございました !