スペシャル

SPECIAL

「ムント」シリーズ Blu-ray BOX発売記念!

ムント役・小野大輔インタビュー

2009年にオンエアされたTVシリーズ『空を見上げる少女の瞳に映る世界』、そして同年公開された劇場版『天上人とアクト人 最後の戦い』の2作品に加え、豪華特典が多数収録された「ムント」シリーズ Blu-ray BOXがいよいよ12月22日に発売となります。

発売に先駆けて、今回はムント役を務めた小野大輔さんにお話を伺いました。
制作当時のエピソードなど、今だから語ることのできる「ムント」の秘話をご紹介します。

——『ムント』シリーズのアフレコに参加された際の思い出はありますか?

『ムント』のアフレコでは抜擢された新人たちが、明らかに「良いな!」と思えるお芝居をする瞬間をたくさん見ました。アフレコ時にはほとんど映像ができていましたが、あれだけ絵が出来上がっていれば演者としては気持ちを上げざるをえません! アフレコ時に「絵ができているので演じやすいです」とスタッフさんに伝えたら、「本当は完成した映像をお届けしたかったのですが」と返されました。すでにアフレコには十二分に事足りる素材をいただけているのにです。

僕はデビュー作も京アニ作品のお仕事だったのですが、その時もほぼパーフェクトな映像があったのを覚えています。『ムント』ではその時の感覚に引き戻していただきました。絵から大きな力をいただいたという感覚は、僕だけでなくキャストみんなが感じていたと思います。

——収録時、他のキャストさんとの印象的なエピソードはありましたか?

当時のキャストたちは新人が多くてとてもフレッシュでした。特に相沢舞さん(ユメミ役)がその象徴で、すごくピュアで真っすぐで、少し不思議なところもある。初めてお会いしたときから、ユメミそのものだと感じていました。現場では参加するキャストみんながキラキラ、ギラギラしていて、「良い作品にしよう」という雰囲気がありましたね。経験の少ない若手が頑張っている中で、若本規夫さん(グンタール役)と稲田徹さん(ガス役)というベテランもいらっしゃって、すごく仲が良くて良い座組だったと思っています。また白石稔くん(グリドリ役)と高橋伸也くん(カズヤ役)は同い年という繋がりがあったので、一緒に現場を盛り上げたり、お互いにライバル視しあったりもしましたね。「京アニといえば」の今野宏美さん(スズメ役)もいらっしゃいましたよね。とにかく仲が良く、上を目指してみんなで同じ方向を向いていられる現場だったと思います。

——特にユメミ役の相沢舞さんが印象的だったとのことですが、具体的にはどのような印象を持たれましたか?

いじられ役のようなキャストが多い現場でしたが、その中で相沢さんはしっかりしていましたね。不思議な子、ふわっとした子だけど芯はしっかりしている。みんながおどけたことを言っている中でも、どこか凛としていました。相沢さんがユメミを演じられるのはこういうところなんだろうなと感じていました。「芯が強い」という表現がぴったりくる方ですね。前に出ないタイプだから控えめすぎるんじゃないかと最初は心配になるんですが、実ははっきりとしたことも言える。「やなこった!」というセリフの真実味や説得力もそこから繋がっている。「やなこった!」は『ムント』シリーズの名台詞ナンバーワンですからね。

——ユメミ以外にも印象に残っているキャラクターはいますか?

謎の多かったグリドリが印象に残っていますね。白石くんに問いただしてみたいですが、ずっと謎のままでもいいかもしれません(笑)。あとはイチコとスズメがとにかく良い子たちでしたね。イチコは表向きの強さと内面のナイーブさを持っており、スズメはどこまでもあっけらかんと我が道を進む心の強さを持っています。イチコが一番等身大の女の子で、堀川千華さん(イチコ役)がそのまま演じている感じがとても良い印象でした。今野さん(スズメ役)も本当に上手だなあと思って見ていました。スズメと言えばカズヤと一緒に川を渡るシーンがまさに青春という感じですごく好きでした。

ユメミ・イチコ・スズメの3人の関係性は見ていて癒されますし、友情の理想の形の一つだと思います。ああいう友達がいればいいですよね。ムントにはいませんでしたけども(笑)。最後はこの3人が天上界まで行くことになり、イチコとスズメがユメミの背中を押し、ムントが引っ張り上げます。ユメミとムントの関係性だけに終始していないのが、この作品の素敵なところですよね。

——数々の京都アニメーション作品にご出演された小野さんですが、木上益治監督の作品に参加してどのようなことを感じられましたか?

僕たちはできあがった映像を見て仕事をしますが、この作品では絵の力に凄まじさを感じました。音響監督の鶴岡陽太さんも「木上益治ここにあり」という作品だとおっしゃっていました。良い絵が良いお芝居を引き出してくれることは多々ありますが、木上監督の技術のすばらしさを肌で感じたのが『ムント』です。

木上監督の作画は、熱を帯びていて、動きが生きています。ここは省略してもいいのではという部分を逆に大きく描いたり、振り向きひとつにも予備動作があったり、息を吸ったり吐いたりしているタイミングも鮮明にわかる。これがどれだけ芝居の助けになったかわかりません。ムントが大きく叫ぶシーンがあるのですが、その前の息を吸う部分の絵をはっきり覚えています。今どれくらいの深さで息を吸っているかが絵からわかる。どれだけの声量、どれくらいの長さで叫べば良いかが手に取るようにわかる。すべて絵が教えてくれるんです。アニメでは声優が呼吸することで絵に生命を宿します。だから息を雑にすると生きた人間はそこに現れないんです。京アニの、木上監督のなされる仕事は、絵の時点ですでに生命を感じられるんです。

——当時の木上監督にはどのような印象を持たれましたか?

何度か鶴岡さんと京都のスタジオを訪問させていただきました。木上監督はあまりしゃべらず、ずっとニコニコしていらっしゃる印象でした。若手の育成や指導を意欲的になさっていたと伺いました。技術屋として自分の腕を磨き、その背中を見せて、育っていく若手をほほえましく見守ってくれる。優しくて大らかな京アニの「お父さん」だったのではないかと感じています。

——『ムント』シリーズにご出演されて、この作品からはどのようなことを感じられましたか?

『ムント』シリーズは木上監督の頭の中にすべてがありました。今回のBD-BOXに当時の資料が収録されるということなので、ぜひまとめて読んでみたいですね。当時は鶴岡さんや他のキャストと議論して理解を深めるようなこともありました。ただし、先ほど言った通り絵が語ってくれるので、わからないから演じられないということはありませんでした。観る側が想像する枠をあえて残している作品だと思います。この作品を見たお客様は何を思い、何を心に残すのだろう。そこに前向きな感情が芽生えていたとしたら、こんなに嬉しいことはないです。

この作品から受け取ったメッセージは「人は一人ではない」ということです。誰かと出会うこと、絆を深めることで世界が色を帯び、鮮やかな光に包まれる。ムントはなぜあんなにも「俺様」と言うのか。王様だからというのもありますが、ムントはずっと一人で戦っていたからなんです。最後の最後まで一人でした。孤高の「王様」だったんですよね。そこに手を差し伸べてくれたのがユメミでした。ユメミも孤高の存在に見えがちですが、ふわふわしていて天然でいながら、素敵な友達や家族の愛に囲まれています。幸せの象徴ですね。そのユメミが一度は一人の世界に閉じこもり、絆のすばらしさに気づいて世界を広げていく、木上監督、そして京都アニメーションがアニメ作品で伝えたいメッセージはいつも普遍的で、希望に満ちていると感じます。

——最後に『ムント』シリーズBlu-ray BOXの発売を心待ちにしているお客様にメッセージをお願いいたします。

いつも応援ありがとうございます。皆さんは日頃から様々な京都アニメーションの作品をご覧になっていることと思います。僕も京アニ作品に出演させていただくことを、毎回光栄に思っています。たくさんの京アニ作品がある中で、『ムント』シリーズはそれらの源流となる作品だと思います。京アニの最新作をご覧になっているお客様も、何かのきっかけで過去の京アニ作品に触れた方も、ぜひこの『ムント』シリーズから京都アニメーションのアニメ制作に掛ける想い、未来に繋がる熱いメッセージを受け取っていただければと思います。